10話目

「流石にちょっと焦ったけど……ファーシスはファーシスだったな……」


カイザンはため息をついて、安心をあらわにする。


「何いってんのさ。言ったじゃん、隊長に頼られてるから負けないって」

「そうは言っても見たこと無いケガレだと心配もするって」

「――2人共! 先行っちゃうよ!」


ファーシスとカイザンの会話を止めたのは、実際に10m程先に行って双方を振り返って見つめるユミリィだった。


その後も、先刻のような異形のケガレは現れず、3人は順調に探索を終えることが出来た。


「今日殺せたケガレ、動物型が16体、異形が1体でしたよ隊長!」

「……多く殺せているな。よくやった」

「でしょ!!」


ファーシスは義一と接するときだけかなりテンションが高くなる。しかし、義一本人は冷めてるテンションのため、いつ見ても2人間でのギャップが凄い。


「――人型のケガレはいなかったのか?」

「別にいなかったよ。今のところ見たこと無い」


義一との話は終わり、落ち着いたファーシスに庵野さんが1つ質問をしたが、その質問の意図はファーシスにはわかりかねた。


「どうしたの? 庵野さん」

「……いや、いないならいいんだ」


故に質問に踏み込んだが、かわされてしまった。


          1


1人、また1人と探索船の食堂に天使達が戻ってくる。

今の探索船には、1から7班の中の1、3、7班しか地球に来ていない。どうやら報告等はその班のみで殲滅可能かどうかの判断材料らしい。

何故その班が選ばれたかはまだ天使達に明かされていない。

――ファーシスは適当に選んだと思っているが。


「そろそろ食事時だな」

「庵野さん、今日は何作るんですか?」

「……残り物だ」


そう言いながら、いつも庵野さんは高クオリティの食事を出してくれる。


「身長は伸びたかよ? アバン」

「何が言いたいんだよ……カイザン」

「いやぁ? 別に」

「絶対馬鹿にしにきたろ!」

「そこに反応してる時点で、自分が気にしてんじゃん」

「うるさい! 僕は気にしてない!」


2人が出会いこの会話を繰り広げるのは最早恒例行事である。


探索船に入り、入口の二重ドアを通り抜ければ、そこには横幅が1m強の長い廊下があり、左右にそれぞれ部屋があるような形だ。

一階の右側に、奥側には会議室、次いで食堂(料理場食事場セット)、手前に医務室がある。左側は全て縦長の戦闘訓練空間だ。簡単には壊れないように、戦闘訓練空間は内側の壁が固くなっている。

それらの部屋を通り過ぎ、1番奥にある階段を登れば、2階にあるのは天使達の個室である。

2人のみでは部屋が広すぎるので、壁をいれて半分にし、その半分の面積に2人いる感じだ。

そして余った部屋は物置や倉庫室にされており、そのまま廊下を進んでいけば、そこにあるのは操縦室である。


――今は食事をとるため、全員食堂に集まっている。


「……ユミリィが……気を……」

「……後ろか……スティーグスが……」

「「――よし、やろう」」


ユミリィとスティーグスが食堂の隅で何やら話をして、そしてがっちりと握手をする。

その後どんな行動を取るかと思えば――、


「……レジィ、今日の夕飯なんだと思う?」

「ん? どうしたの、いきなり」


ユミリィは自然を装ってレジィに話しかけに行った。狙いを、思考を悟らせず、ユミリィは会話を広げてゆく。

――そして、


「……バァ!」


ひっそりと後ろに回ったスティーグスが、レジィに大声を出して驚かせていた。――しかし、


「馬鹿スティーグス。何回もやられたらわかるわよ」


と、全く驚く様子なく、むしろレジィはスティーグスとユミリィに説教を始めた。

悪戯っ子と悪戯っ娘への説教のスタートである。

だが、2人の天使には反省の色など少しもなかった。何故なら、


「何分?」

「……13分」

「じゃ私8分」


――と、説教の終わる時間を賭けているからである。


「……相変わらず、レジィはスティーグスに注意してるんだね」

「サタが注意しなさすぎなの」

「あはは……厳しいなあ……」


――この会話も、恒例行事である。


「――皆さん方! ご飯できたッスよ!」


そのカツキの声と同時に、それぞれ親睦を深め合っていた天使達の間を美味しそうな食事の匂いが駆け抜ける。


「今日の夕飯は……あれ、なんでしたっけ? そうッスねー……麻婆豆腐なんてどうッスか!」

「玉ねぎと豚肉のケチャップ炒めだ阿呆」

「義一さん! 阿呆とはなんスか阿呆とは!」

「カツキぃ……食べようよ……」


――何故こんな時にすらユウキの声が震えているのか、カツキは疑問に思いながらも配膳を終わらせる。


「……それじゃあ、手を合わせて」


いつもの通り、庵野さんが食事の挨拶をする。


「――いただきます」


全員の声が揃うのは、この食事の挨拶のときだけであろう。


「……んぇ、うまっ! 庵野さん、これちょーうめぇ!」


カイザンが食事の称賛をする。しっかりと口の中の食べ物を飲み込んでから話す当たり、隠しきれない本質の真面目さが垣間見えている。


「ほんとだ……こう、口の中にぐわ〜って」

「お前はまず飲み込め! そしてそのよくわかんねぇ食レポをやめろ!」

「なっ……!」

「まあ皆で美味しく食べようぜ? なっ?」


カイザンとアバンのやりとりを止めたのは、庵野さんの料理を味わいたいという表情が全面に出ているミカレであった。


――こうして、探索船の夜は更けていくのである。



         ■■■


『レジィ』


・11歳 ・女 ・155cm


焦茶色の髪に黄色の双眸で、ポニーテールの髪型をしている。

サタの親友であり、優しすぎて怒らないサタの代わりによく悪戯っ子たちを説教している。


魔法『トランスパレント』

自分と、自分の触れている相手を一定時間透明にすることができる。

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