第5話

ミカレはシールドを割られた直後にすぐさまそれを展開し直すことはできない。

異形のケガレの前足が、倒れて何もできないリヴァを虫を踏み潰すように振り下ろされる。

ミカレはそれを、見ることしかできなくて。

ゆっくり、しかと目に焼き付けろと世界が言っているのか、ミカレには振り下ろされる足がスローに見える。

その代わり、自分の動きも緩慢だ。

だから、


「リヴァ――」

「『グラビティ』ッ!」


だから、その時響いた声と顕現した魔法は、ミカレにとって形容詞し難い程の希望の光となった。


          1


――アバンの魔法は不安定だ。

練習はしているが、未だに『グラビティ』を扱いきれていない節がある。

発動しなかったり、思った威力じゃ無かったり、その扱いきれていない要素がどこに出るかすら不確定だ。

――だが、リヴァを守りたいという一心で、ただそれだけを考えて発動したアバンの魔法は、今までで1番の威力でケガレを攻撃した。

悲痛な叫び声を上げるミカレに重なって響くアバンの声は、それに伴って超常の現象を起こす。

ケガレの右側の空気が、重さに歪む。

振り下ろされる筈だった足が止まる。

重力が、重さが、ケガレを横殴りにして吹き飛ばそうとする。

狙いを変えるためなら上々。だが、アバンの狙いはケガレを遠くに吹き飛ばすことであった。

それの実現には――、


「出力が……足りて……っ!」


ケガレが振り返る。自身を横に押し付ける重さが常時右半身に浴びせられているのに、それをものともしていないように、軽々とこちらに振り返る。

先程も言った通り、今アバンが発動した魔法はここ1番の出来栄えだった。


――だが、足りない。 


発動に手一杯のアバンは、重力を振り切って迫るケガレの攻撃を避けられない。

成功虚しく、ケガレの鞭がアバンを貫き――刹那、ミカレがアバンを抱えて鞭の範囲から逃れていた。


「よくやったアバン! これであいつの狙いは俺達だ!」


倒れているリヴァに関心はもう向いていない。

今のケガレの狙いは、十中八九アバン達である。

1歩後ろに下がり、2人はケガレと一定の距離を取る。

――ミカレのシールドは既に最大硬度で展開できる。これならまだ勝機が見えてくるというものだ。


「やるぞ、アバン」

「……あぁ」


生き残る為だけに生きるケガレは、多少勘が働けど動きは直線的だ。そこを、突く。


「アバンは右からいってくれ。俺は左から攻めて同時に――」

「『サンダー』」


直後、成人男性の腕ほどもあろう黄色の稲妻が、ケガレの頭を撃ち抜いていた。


「アバン、ミカレ、大丈夫?」


先程呪文を紡いだのと、同じ声。

可愛らしい少女の声だった。


彼女はサタ。アバンと仲が良く、魔法操作に長けている少女である。



         ■■■




『アバン』


・9歳 ・男 ・134cm


魔法『グラビティ』


清浄の天使の1人。

白橡色の髪と、浅緑の目をしている。

髪の毛は後ろで三つ編みにしている。

腕っぷしや性格の面で少し頼りない部分があるが、誰かを思いやる心が強い。

この作品の主人公である。

使える魔法は重力操作系の魔法。

だが、まだ制御が上手くいっていない様子。

身長が伸びないことを気にしている。

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