第4話

もう一度説明するが、今の地球は『ケガレ』が世界中を覆ってから、十数年経っている世界だ。

――つまり、その十数年を生き残ってきた個体が、今のケガレなのだ。

犬型や猫型、動物型のケガレは数が多いが理知が特に低い。

故に、探索船が地球に降り立った時の衝撃音に警戒をしないのだ。時間が経てば経つほど、生き残ることに対して異常な勘を持つケガレが近づいてくる。

知能は無いが、生き残ることに長けたケガレがいるということだ。

他のケガレを喰い、喰らわれ、生き残り、進化する。

喰い、戦い、進化して。

喰んで、噛みちぎり、本能で生き残り。


――その個体の1匹が、天使に近づく。


          1


「今日も問題なさそうだね。……帰ろうか」


リヴァがミカレとアバンに指示する。

今日は地球に来てから3日目の昼だ。

アバンは目の前の瓦礫をどけて探索船への道を先導するリヴァの後ろをついて行く。

ミカレも同様だ。


「アバン、明日は僕が庵野さんの代わりに組合してあげようか」

「え?」

「組合だよ。いっつも同じ相手じゃつまらないかなと思ってさ」

「あぁ……」


――じゃあ、お願い、と言おうとした瞬間だった。


固まって歩いていた3人の天使に――黒い瘴気が鞭のように細く、速く迫る。


「――散らばって!!」

「『シールド』!」


ミカレとリヴァの声は同時に響いた。

3人の頭上に半透明のシールドが展開され、黒い瘴気がシールドに阻まれる。

鞭とシールドは威力と防御力が拮抗し続けるが、きっかり5秒でシールドが破壊される。

――だが、もうそのときには天使達はそこから退いていた。

瓦礫が鞭により粉々に砕け散る。

天使であれど、当たればひとたまりもない。

立ち位置はリヴァとミカレの二人で板挟みにしている立ち位置。アバンはいざという時シールドで守れるようにミカレの後ろだ。

――瓦礫を破壊した鞭が戻っていき、代わりに崩れた建物の影から出てきたのは、高さ3mはあろうかという怪物だった。

――犬にも、狐にも見える、とにかくよくわからない動物の頭が1つ。それだけならまだ大きすぎる動物で形容できたが、問題は胴体だ。

横半メートル程の胴体が3つ並び、その3つの首から伸びるケガレが1つにまとまり、先程の頭になっている。


「リヴァ! 戻ろう!」

「駄目だ! ――こいつはここで倒さないと、危険だ」


逃亡を提示するアバンに対し、リヴァは戦闘を選択する。


「ミカレ、あのシールドもっと固くできるか?」

「……いける」


疑問を排除し、リヴァは脳内で化け物を倒すパーツを組み立てる。


「――『ウォーター』」


リヴァの指から放たれた水圧光線は、通常の犬型のケガレを簡単に祓える威力を秘めた一撃だ。

それは目にも止まらぬ速さで図体のでかいケガレに迫り――そして弾かれる。


「――!」


リヴァは水圧光線が弾かれたことに目を見開くが、だが絶望はしない。

威力を上げて、もう1度。


「ウォー……」


――刹那、リヴァが鼻血を出した。


――世界がスローモーションだ。横に受け身もとれずに倒れるリヴァが、ゆっくりと、ゆっくりと。2人の天使の双眸に情報として入り込み――そして脳に届いたその情報は、否応なく理解を強制する。


「「――リヴァ!!」」


アバンとミカレが揃って声を張り上げる。

だが化け物は2人に向きもせず、ただリヴァにトドメをさそうとする。


「『シールド』――ッ!」


ミカレは声を張り上げ、セイジョウで魔法を使用した。

半透明のシールドが鞭とリヴァの間に展開されて、リヴァの体をケガレから守る。

鞭は半透明のシールドに阻まれ――2秒と持たずに割れてしまう。


――破壊された直後のシールドは破壊される前より、大幅に脆くなるのだ。


瘴気は考えない。ただひたすらに、自身を脅かす存在を消す行動をのみ取るのだ。

故に、1番強いリヴァを殺すまでターゲットは変わらない。


倒れたリヴァの前に佇み、異形のケガレはその黒い前足でリヴァの小さいに足を振り下ろし――。



         ■■■


『ミカレ』


・13歳 ・男 ・157cm


魔法『シールド』


杏色の髪と芥子色の双眸をしている。

シールドを展開できるが、1度に1枚までしか展開できず、ある程度の攻撃を食らえば割れてしまう。

犬型のケガレ程度の攻撃であれば、基本いつまでも耐えることができる。

面倒見がよく、アバンを気にかけている。

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