第2話

――リヴァ達は7班である。

地球に送り込まれた天使たちは3人1組の班で分けられており、全部で7班だ。

1〜5班は主にケガレを祓う戦闘要員として。

6、7班は探索要員として組まれている。


「……まぁ、ケガレがいても僕が祓うから」


不安そうなアバンを安心付けるために、リヴァは声をかける。

アバンの班は、アバン、リヴァ、ミカレの3人だ。

ミカレは杏色の髪で、芥子色の目をした子だ。

この子も同じく、13歳とリヴァよりは年下である。

アバンに関してはまだ9歳なのだ。いくら戦闘のシュミレーションをしていたとしても、守ってやらないといけない年齢なのだ。


「リヴァ兄程じゃなくても弱いケガレなら俺でも祓えるしな」


見れば、ミカレもアバンに話しかけていた。

そんな、平和そうな雰囲気が流れる中――その空気を『穢す』不届き者が現れる。


「――ッ!!」


あたりに獣のうめき声が、エコーがかかったように聞こえてくる。

体格は大型犬ほどで、声の主は全身から黒い瘴気を放つ犬型の『ケガレ』だ。


「下がって」


リヴァは二人を手で静止する。

そして――頭上に天使の輪が出現する。


「『ウォーター』」


魔法が紡がれ、その言葉と共に――『魔法』が顕現する。 

リヴァは右手の人差し指と親指のみ開き、銃の形にして、その指の先をケガレに合わせる。――次の瞬間、タコ糸と同程度の太さの『水』が放たれた。それは矢よりも速くケガレへと迫り、寸分違わず犬型のケガレの額を撃ち抜く。

ケガレは撃ち抜かれた直後に大きく体を揺らし、ビクビクとのたうち回らせ――そして突然プツリと動かなくなった。


「……」


リヴァは、アバンとミカレに悟られないほど小さく、拳を握る。

――これが元とはいえ、生き物を殺す感覚なのだ。

戒めを、しなければならない。


「……さ、探索に戻るよ」


そのリヴァの言葉をきっかけとして、3人はまた探索を開始した。


          1


「……天使たち、大丈夫ですかね」


現在の地球は人間が住むことができない、にも関わらず、今の声を発したのは人間だ。

だが、彼は瘴気に侵される心配はない。なぜなら、定期的なメンテナンスが必要とはいえ、探索船は瘴気に侵されないからだ。

そして、その探索船で心配に声を震わす人物が1人。

――探索船の操縦者、紡城優(ゆうきすぐる)である。彼は宇宙基地随一の天才操縦士だが、残念なことにビビりであった。

内心地球に来ることを良しとしておらず、探索船の壁がガタガタと音を鳴らすだけで悲鳴を上げる筋金入りのビビリだった。

身長は169cmと、成人男性なりの身長はあるため、更に惨めに見えてしまう。


「大丈夫ッスよ! どうせ僕たちよりあの子達のほうが強いッスからね。セイジョウもあるし、心配することないッス!」

「姫宮ぁ……」

「名字で呼ぶのやめてほしいんスけど……」

「あ、ごめん」


優に声をかけたのは同じく人間の青年である姫宮勝喜(ひめみやかつき)だ。

彼はノリが軽く、ビビりの優といて丁度雰囲気が中和される節がある。


「……ん」


そして今度は椅子に座っていた白髪の老人が声を漏らした。老人と言えど、身長は180cm以上あり、未だに意識も背筋もピンとしているため老いている雰囲気がない。


「……帰ってきたな」


老人――庵野宗一郎(あんのそういちろう)は探索船の入口に目を向ける。

そして丁度その瞬間にケガレを入れぬように二重に設計されたドアが開き――、


「……ただいま」


現れたのはアバン達だった。


「お帰りなさいッス!」


勝喜が敬礼をして声を上げ、出迎える。


「他の班は皆10分前くらいに全員戻ってるッス! 3人も、部屋でゆっくり休むッスよ」


これにて、至極安全に、平和に、初回の探索は幕を閉じた。


「……疲れたな」

「リヴァ兄だけ、魔法使ったからね」

「それ込みにしても、この頃疲れやすいんだよ」

「ちゃんと休んでね、リヴァ兄」


アバンとリヴァは自身の部屋に向かいながらそんな会話を交わした。

尚、ミカレは先に部屋に行ってしまった。


「……じゃあ、僕はこの部屋だから」

「また明日だねリヴァ兄」

「ああ、おやすみ」


その会話をあとに、夜は更けていった。



        ■■■


『探索船』

清浄の天使及び数人の人間が乗っている船

中学校と同じ程の大きさで、設備は基本全て揃っている。ケガレの瘴気を防ぐコーティングがされており、中にいれば人間は瘴気を喰らわないが、完璧ではないので定期的なメンテナンスが必要。

操縦室、食堂、倉庫、医務室、その他諸々は揃っている。

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