第7話 「資料集めに行こうかしら」
「元木君、行きましょうか」
「……えっと、まずはどこにか教えてもらっていい?」
放課後。
同クラの友人と話していた時。
どこからかユリコが来て、僕を誘う。
ユリコが有無を訪ねることは無くて、もうすでに行くことが決まっているような感じだった。
昨日は、ハルカにおごってもらったから財布はノーダメージだけど、依然として所持金は心もとない。
何かいい断る方法はないかと考えていると――
「そんなに身構えないでいいわ。ちょっと書店に行きたいだけだから」
「そ、そっか」
「何?」
「いえなんでもないです」
「そう。じゃあ行きましょ。大きな書店がいいから駅前の書店に行きたいの」
昨日も書店に行ったからいけないとは言えなかった。
二日連続で書店に行く人も一定数はいるだろう。
僕はユリコの後をついていくことになった。書店2Daysである。
〇
「私は広く見て回りたいのだけれど、元木君はどうするの」
「僕もついていくよ」
「そう? じゃあ行きましょう」
「ユリコはどんな本を探しに来たの?」
「……」
ユリコは黙り込んだ。
何か聞いてはいけない理由があったのかと思う。
そんな秘書を買いに、僕を誘うなとも思った。
しかし、杞憂だったようで、本棚を見て回りつつ話してくれた。
「小説。この前見せた小説あったでしょ?」
「覚えてるよ(あんな恥ずかしいの忘れないよ!)」
「私あれを書いてみて、もっと上手になりたいと思ったの。でも何を書いたらいいのかわからなかったし、上手な文章も書けなかったの」
「僕は小説を書いたこともないからわからないけど、ユリコの見せてくれたのもすごい上手だったよ」
「そんなことない。あんなのどうして見せたんだろうって後悔してるわ」
「……そっか」
本当は内容の時点で、本人に見せるべきものではない、と気づいてほしかった。
「それで勉強のために小説を買おうと思って、今日は本屋さんに来たの」
「どうして僕も?」
「それは……元木君がどんな小説が好きなのかも知りたくて。元木君がいなかったら私の小説は完成してなかったから。だから、元木君も作者みたいなものなのよ」
「いや、そんな、遠慮しておくよ」
あれはユリコが勝手にやったことです。
私は関係ありません。
ただ、本当に何かを頑張ってみようとしている人間は応援したいと思うのが人間の性。
自分が勝手に元ネタにされているのには思うところがある。でも、別に僕自身に悪影響があったわけではないし、ユリコが頑張りたいならできる範囲で協力しようと思った。
「じゃあユリコの小説によさそうな本を、僕も探すよ」
「ありがとう。それじゃあ見て回りましょ」
〇
書店をうろつくこと一時間半ぐらい。
ユリコは本当に書店内を練り歩いた。
資格書や子供向け参考書の棚までしっかりと見ていて、役に立ちそうな本はすべて手に取ってみていた。
僕も、ユリコほどではないけれど、気になった本があったら手に取り、本棚に戻すというのを繰り返していた。
そしてユリコが手に持っている本を見てみると――
「ねぇ、ユリコ。何か参考になりそうな本は見つかった?」
「ええ。ほら。こんなに見つかったわ」
確かにユリコは腕に数冊抱えていて、ユリコの上半身に沿ってその本が終盤のジェンガのように歪んだタワーを築いていた。
そのタワーから推察される胸部は……いけない非常にエッチだ。
僕は雑念を払い、ユリコの抱えている本のタイトルをざっと上から見ていく。
『誰かのものなら殺しても……』
『必殺!ラブコメなんていりません。』
『二人だけしかいない世界になったので楽しく生きていきます』
『絶命恋愛』
「もしかして僕、殺される?」
「ふふふ。別に元木君は殺しはしないわ。単純に私の趣味なのよ」
だとしても自分の恋愛小説のモデルに僕を使ったんですよね⁉
なら、もし僕が何か余計なことを働いたら、その小説で起こることが僕にも起こるんですよね⁉
「へ、へぇ~」
「元木君も何か持ってるみたいだけれど」
「これ? ユリコが書いてるのは恋愛小説みたいだったから、こういう方が役に立つかなと思って」
「ファッション雑誌……?」
「うん。僕は見ないけど、女の人の雑誌ってファッション以外にもいろんな情報が載ってるって聞いたことあったから」
「でも、少し幼過ぎないかしら。見たところ小学生から中学生向けのようだけれど。もしかして元木君はそのぐらいの子が好きなのかしら……⁉」
「違うよ! 恋愛について書いてあるのはこのぐらいの年代かなと思ったんだよ!」
一瞬。
とんでもない殺気を膨らませたユリコだったが、すぐに否定すると、ゆっくりしぼんでいった。
なんでこんなに扱いずらい爆弾みたいなんだ。
もう少し落ち着いてくれるともっと仲良くなれそうなのに。
そう思っていると、ユリコが僕の持っていた雑誌を取った。
「確かに雑誌は盲点だったわ。私はこういう雑誌には縁遠かったから」
「だよね。だからいいかなと思って」
「……ありがとう。私のことを私よりも知っているのかもしれないわね……」
「絶対そんなことないから大丈夫!」
結局、ユリコは僕が見つけた雑誌と、『絶命恋愛』という堅めの小説を買っていた。
会計をするユリコを後ろで見ながら、少しでも役に立ってくれればいいなと感じた。
〇
翌日。
朝から小テストなので少しでも悪あがきをしようと早く学校に来ていた。
家だとどうせ勉強などしないのだ。なぜなら、勉強よりも有意義な時間の過ごし方があるから。
勉強も有意義だろ!
とおっしゃられる方はどうぞそのまま歩んでいってほしい。その方が有意義な将来が待っているのだろう。
と、自分の怠惰に言い訳をしていると、昇降口にユリコがいた。
「おはよu――ユリコさん⁉」
「あら、元木君。朝からあえて嬉しいわ」
顔を若干赤めるユリコはかわいかった。
が、それよりも僕の目に飛び込んできたのは赤色のハートマークの髪飾り。最初はローリングストーンズのロゴかと思ったが違う。まごうこと無きハートマークだ。
そして後ろ髪は二つに分けて、それらを三つ編みにしていた。その三つ編みをまとめた後頭部には控えめにピンクのリボンが結んであった。
間違いない。雑誌の髪型をまねてしまったのだ!
考えろ。
元木シュウ考えろ!
女の子が髪型を変えた時は褒めるのが鉄板だ。でも待て、あれはティーンズ向けの髪型だ。ユリコのイメージとはかけ離れている。
それならやめるように言うべきか?
いやでも、髪型にルールなどない。別に女子がスキンヘッドにしようが、男がポニーテールに使用が自由なのだ。
くっそ!
何が正解なんだ⁉
「ユリコその髪型って……」
「……ええ。おかしいのはわかってるわ(よかった。自覚症状はありか)」
「でも一度試してみたかったの。……でも、わかったわ。私にはこんな髪型似あってないわよね」
そう言うとユリコは三つ編みをほどき始めた。
その仕草はつやっぽくて、結解けた三つ編みが軽くうねっているのが非日常的で、つい僕はこう言ってしまった。慰めるためとかじゃなく、気づいたら言っていた。
「その髪型も好きだよ」
「……っ⁉⁉」
「あ、いや、その別に髪型なんて、別に自由っていうか」
「……ずるい。……絶対似合ってないのに、どうしてそんな……優しいこと言うの?」
「……その。なんていうか」
「もう何も言わないで。……でもね、元木君」
「?」
「誰にでもそんなこと言ってたら、いつか死ぬわよ?」
「肝に銘じておきます」
本能的な恐怖を感じた。
実感を伴った言葉と言うのはこんなにも身に染みるのかと思った。
当然、小テストは僕らしく平凡な結果に終わった。
学校ノーサイド、そこにコケティッシュ ㈱榎本スタツド @enomoto_stud
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