第8話前編 親善試合《トライアル》
実技区画。中心にある教養区画から北に位置する区域の南東部にある【第二修練場】は巨大な闘技場であり、広大で平坦な地面が、広がる。雨天時には屋根が閉じ、訓練施設として武芸科なら誰でも使用出来る。一応一般教養科も使用できるが、教師の許可を申請する必要があるらしい。
小隊規模の戦闘や魔導士科との合同授業を始め、12月末に行われる
無論、年始めの
「おー、皆揃ってるな。じゃあ、早速実技を始める――と行きたい所だが、前回のおさらいといこうか」
担任であるジークムント・オーディン・オウス・アルセイフが声を掛ける。推定三十代後半の男は白みがかった金髪をきっちり纏め、蒼穹の眼光が初日のいい加減な印象を払拭する。 足運びや空気感は存外様になっており、真面目な雰囲気にアリカの気持ちは(比較的に)引き締まった。
もっとも、約三百人以上の生徒達の黄色い声と不満の声が殺到する状況では、それも一瞬の事だが。
「はい、静かに。さて、我々は魔物と戦う為に武器や身体を使った体術――つまり【
「先生、私が」
礼儀正しく答えた金髪と碧眼の少年――セオドア・ガウェイン・オウス・エルリックが真っ先に手を挙げる。ジークムントが彼に微笑みを向ける。
「よし、ではエルリックに頼もう。ああ、簡単で良いからな」
微妙に面倒な要求を受けて、苦笑気味に一つ咳払いをすると、口を開いた。
「気術とは、
「その通りだ。ついでに気術で基本となる流派を3つ答えてみろ」
「はい。この気術における流派はアルベイン流、ヤマト流、ファイナス流の3つの流派があり、アルベイン流はデリス帝国建国時から存在する最も古い流派です。柔軟性に富んだ技により様々な状況に対応出来る特徴があります。
次にヤマト流は王梁国発祥の流派で、二刀流を前提とした連撃技や他流派における奥義に該当するような強力な技の組み合わせは非常に攻撃的。防ぎ切る事は困難な程でしょう。
最後にファイナス流は守りに重きを置いた流派であり
説明が一区切りついた所で、ジークムントは両手を数回打ち鳴らす。
「ああ、十分だ。分かりやすい説明ありがとう。エルリック。無茶振りして済まないね。戻って良いよ」
「はい」
説明する為に前に出てきていたエルリックは生徒の列へ加わる。彼はアリカの方を見て、笑って見せる。それに彼女の方も作り笑いで返してやると、
『結局あの留学生、強いのか?』
『六十四秒とか、どうせガセだろ』
『修練場にも来た事ないみたいだし』
声は出さないがしっかり不満の
「さて、諸君もお待ち兼ねの
「はい」
指名され
たアリカは指示された定位置につき、堂々と相手を待つ。しかし、彼女の相手をしたい生徒はほぼ全員なので中々決まらない。ジークムントは仕方がないので、彼女自身に決めて貰う事にした。
「――ユーディット嬢。ここは一つ誰とやりたいか決めて貰ってもいいかな?」
「いいよ。誰でも良い?」
「勿論」
「ならアルセイフでよろしく」
一気に歓声が増す。黄色い声を上げる者、アルセイフを応援する者、中にはアリカへの不満の声を上げる者まで多種多様だ。
「よーし、取り敢えず一戦目始めるぞ。両者、前へ」
ジークムントの声がけに一旦静まり、アリカは相手の準備が整うまで、静かに待つ。アルセイフも軽い運動を済ませて、定位置に向かう。
両者の準備が揃ったのを確認し、ジークムントは試合の説明をする。
「時間は無制限、どちらかが致命打を与えた時点で終了。致命打は頭と胸の他に足も判定に入るから注意しろ。今回は近接戦闘を想定しているから、一節単位までの初級魔術まで使用を認める。後、戦闘中に両手に打撃を貰った場合も致命打判定にする。片方のみの場合は使用禁止にして試合続行。ここまでいいか?」
「「はい」」
二人共内容に意見する事はない。アリカは改めてアルセイフの持つ二振りの剣を見る。透き通る
そんな事を考えている彼女を他所に、周囲の生徒達は怪訝な顔つきになっていた。それもそうだ。彼女が提げている物は剣は剣でも
主にリサが好んで使っている
しかし、問題はその異様な長さだ。鞘の長さからしても九十センチ以上、全長で考えれば約百センチ程の長大な代物で、俗に【大太刀】や【野太刀】とも呼ばれる。以前イーグルとの試合中に提げていた刀は異常なまでに封印処置が施されて異質を放っていたが、こちらは別の意味で異質だ。百五十センチに届くか届かない位の彼女が持つには不都合で、不釣り合いな武器だとアルセイフを含め誰もが思った。
「手間が省けたね」
「いや、まさか初手から相手するとはな……」
「私も最初からやれるとは思ってなかったよ」
「その剣、もしかして二刀流だったり?」
そう聞いてくるアルセイフの視線を追うと、アリカの提げている大太刀とその上から提げている真新しい白銀剣が目に入る。
「そんな訳ないじゃない。これは修練用にいつも使ってる奴。今回は
アリカは呆れながら白銀剣を見せると、その剣を鞘に収め、大太刀を鞘で撃ち出すという特異な抜刀法で危なげなく抜き取り、自然な動作で肩に乗せる。全力と明言した以上、一番使い慣れている得物で戦うのは当然の選択だ。
アルセイフはその長大さと奇抜な抜刀法に面食らったものの、刀を使う生徒は珍しくもない為にすぐに持ち直し、蒼穹色の剣を抜く。
「そういうお前こそ二刀流何じゃないの?その白銀剣、年季入ってるけど良い剣なのは見て分かるよ」
「残念ながら、この剣は使わない。お守りみたいなものでね」
「……随分立派なお守りね」
「そっちも似たようなものだろ」
二人で不敵に笑いながら、構える。
アルセイフは左足を軽く前へ開き、剣を上段と中段の中間の位置に構えて剣先を正面に向ける。アルベイン流の基本的な型だ。対するアリカは両手で上段に構え、左足を僅かに前へずらし、肩幅より少し広めに踏みしめる。シュテルン王国主流のファイナス流ではなく、やはりと言うべきか刀と生まれを同じくする
「――――フゥ――――」
アリカは短く息を吸い、深く吐く。戦闘態勢は良し。後は様子見も手心も無く、ただぶつけるのみ。およそ力量を同じくする相手へ、真っ直ぐに。
ジークムントが手を下ろす合図を待つ。
一筋の雫が、実にゆっくりとした速度で、落ちる。
「――始め!」
「――破ぁっっ――――!!」
「――勢ぃっっ――――!!」
始まりと同士に二人の怒号が響く。魔力によって強化された彼らの肉体は、通常の速度をゆうに超え、影を置き去りに、相手まで素早く迫る。一メートルの刃がアリカの剛力と自重により、並の剣士なら一刀両断される一撃がアルセイフを襲う。が、アリカが動くとほぼ同時に動いていた彼は高速回転を加えた袈裟斬りを繰り出す。
ぶつかる衝撃。その余波に砂埃が舞い、両者の間にある地面がに亀裂が走る。彼らの力は拮抗し、どちらも譲らない否、
「――――くっ――!?」
拮抗した刃が崩れ、アリカの刀は地面へ振り下ろされる。勢いの乗った刃はそのまま地面を叩きつける軌道を取り、対するアルセイフは返す刀で上段から頭を狙う。
「貰った――――!」
「――まだだっ!!」
叩きつける刀の軌道は柄を半回転させたアリカにより切り替えられ、高速の切り上げがアルセイフを襲う。
「――――ぉっ…………!」
剣ごと打ち上げられていたアルセイフを追撃すべく、跳躍して【
がそれは次の瞬間に、炎の鳥が真空波を打ち消し、アリカに直撃する。
「――むぅぅっ――――!?」
アルベイン流気術【
一進一退。刹那の切り結びを何度か交わし、無数の切り傷を増やし、また仕切り直し。
退いたら、
「「……はぁ、はぁっ。はぁっ……!」」
肌が粟立つ。両者共に充分に距離を離しても、気配の密度が尚濃い。両者の息は乱れ、構えを解き、ゆったりと杖代わりにしている少年と、腰に手を添えて肩に大太刀を担ぐ少女の様子は隙だらけに見えて、その実一分の隙もない。この時、この場にいる誰もが思った。
美しい、と。
どれほど修練を積めば。どれほどの覚悟を持てば。どれほどの経験を重ねればあそこに立つ二人のように気高く、強く、輝きを持った己になれるのか。
二人の舞台を生徒達はただ、その動作を見逃さないように、呼吸の仕方から汗の一雫までしっかりと、両の目を開いて見ていた。
※※※※※※※※※※※※
アリカとアルフォードの初対決!
大太刀を軽々振るうアリカとそれを往なすアルフォード。
まだまだ戦いは続きそうな雰囲気だけど、取り敢えずここで終了。
アリカとアルフォードの勝敗はどうなるの?とか、生徒達の反応は?等気になる方は木曜までお待ちを。
面白いと思った方はフォロー&☆評価お願いします。 では良い一日を。
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