報告
「と言う訳で、夏期講習なる物に行く事にした。進路も決まった」
その日の学校からの帰りがてら、奏は早速京成に決定事項を報告した。
京成は心配してくれていたのだから、きっと応援してくれるさ!なんて思っての事だった。だがしかし、結果報告を聞いた京成はなんだか不貞腐れた顔。
「この野郎……人の心配を女と過ごす口実にしやがって。しかも双樹ちゃんと」
なんと京成の耳は腐っていた様で、奏の説明とは別の事が聞こえた模様である。
奏はあれ~?と、すれ違いの原因を考え込む。が、そもそもルールが違うらしい。
「んと…話聞いてた?俺マジなんだけど」
「分かってら。だから真剣なんだろ?マジなんだろ?やってられっか、畜生め!」
「ん……おかしいな。感動して讃えてくれると思ったんだが……」
「は?叩いて良いって?んじゃ遠慮なく!」
「そんな事言ってねーだろ!」
僅かな会話の内に分かった事は分かり合えないと言うただ一つの事だけだった。
「あ、そういえば、奏」
「おう、なんだ?馬鹿野郎」
十分程奏を追いかけ回した後に、京成は足を止めた。何と言うか京成の『叩いてやる』という冗談は、どこか本気じみた物があり、奏を本気で逃げさせた。その結果、二人は普段の通学路から外れて、鶴賀神社の入口まで来ていた。
「この神社で夏祭りが有るじゃん?」
「あったっけ?」
「有るよ。まぁ夏祭りって言うか出店だけど。今年はもうちょい豪華にするらしい」
「あ~…有った様な。行った事ないや」
この辺りには嘗て様々な祭りが在った。千鶴沢の祭り然り、他の集落の祭り然り。集落から移り住んで来た人達は、本当はそれを執り行いたい訳である。と言っても千沢町はそれらの集落の集合体なので暗黙の了解で何か特定の祭りをするという事はなかった。ただ、出来て二十年も経つ今。何もしないのは寂しいと言う事で、どの集落の祭にも寄らない行事として、最近夏祭りが執り行われ出したのだ。
と、京成と話している途中で、奏はある物に気が付いた。
(あ…あの子、泣いてた子だ)
神社への入口に、双樹と再会した日に、迷い茨の森に消えて行った子が立っていたのだ。その子は木々の暗がりから、奏をじっと見ていた。その子はとても何か言いた気だった。けれども口が無いので、それが果たせない様子。
「なあ、奏!聞いてるか?」
「え!?あ?おお」
女の子に声を掛けようとしたら、京成に肩を掴まれた。
びっくりして目を放すと、女の子の姿はもう無くなっていた。
「あれ?京成さっきそこに女の子居たよな?」
「は?双樹ちゃんという者が在りながら、もうそれか?」
「そんなんじゃねーよ……」
京成は機嫌が悪く、論理的な話が出来る風では無かった。
「で?夏祭りが、どうしたんだ?」
「いや、双樹ちゃん来たばっかじゃん?親交を深める為に皆で夏祭りに行かないかなって」
提案する京成は、いつもと比べると歯切れの悪かった。
「ふ~ん……」
歯切れの悪い理由は置いといて、この懸案は奏にとって悩み所だった。『一緒に勉強しよう!』と言った手前、昨日の今日で『遊びに行こう!』というのは気が引けた。しかも『私は友達を作りに来たんじゃないの!』なんて返答された日には、またひと悶着起こしてしまいそうだと思った。
「どうだろうな?言ってはおくけど」
「おお、じゃあ任すよ」
「……どうしたんだ?お前」
受け答える京成は、気乗りのしない奏くらい元気のない感じがした。
「そうだ、奏。知ってるか?」
「知ってるって何を?」
奏は京成の誤魔化しに付き合う事にした。
「この神社に祀られている神様の話だよ」
「そう言えば、知らないなぁ」
「なら教えてやろう。笑うなよ?」
京成は語るのも惜しそうに勿体付けながら、とある間抜けな神様の話をしてくれた。
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