第53話 人間性を図るための発砲
アルバートの声が聞こえたと同時に倉庫内の電気がついた。
アイにとっては暗い時とそこまで変わらない視界だったのだが、人間にとってはそうはいかない。
ノイカは照明のボタンの近くにいた背の高い男性を引っ張りながら、アイの元へと戻って来た。
男性……もとい、アルバートだが、彼はノイカよりも数倍背が高かった。
特段ノイカも身長が低いわけではなく、女性ならやや高いぐらいの背丈なのだが、アルバートのほうが背が高いために目の錯覚で彼女が小さく見える。
ノイカはアルバートをアイの前に突き出すと、文句を言いたげに腕を胸の前で組んだ。
「初めて会う人間を試すのをやめろって言ったわよね」
「言っていたな」
「とりあえずアイに謝りなさいよ」
アルバートは無言のまま正座をすると、抱えていたライフルを傍らに寝かせた。
そして自分の体の前へ腕を持っていく。両手の指先をそろえた状態で、指の先端だけ床へ控えめにつけると、深々と頭を下げた。
「すまない」
所謂、土下座である。
アイは初めて見る土下座に一瞬フリーズしていたが、データベース内で画像検索をかけたのだろう、一人納得して「これが土下座」と呟いていた。
「どうしてボクは土下座されたのかな」
「こいつの悪癖が出たからよ」
「悪癖?」
尚も正座のままちょこんと座っているアルバートを親指で指して、ノイカはそう言った。
説明は自分でしろと言いたげな態度である。
言葉を介さずともノイカの意図がアルバートには伝わったのか、彼は一度深く頷くと口を開いた。
「人間性を図るために発砲している」
「人間性を図るために発砲している……?」
流石のアイも一言一句たがわずに言葉を繰り返した。
アイは一生懸命彼の言葉を理解しようと、様々なプログラムを起動する。
会話の返答をスムーズに行うものからデータベースへの検索プログラムまで、自分がショートしないギリギリの容量でプログラムを実行するも、最適解は出てこなかった。
それもそのはずだ。
人間ですら今の言葉の真意を理解することは簡単なことではない。もうここまでくるとアンドロイドだから、人間だからと言う理由ではなくなってしまっている。
どう考えても、アルバートの理論は意味不明なのだ。
こうなることが分かっていたのだろう、ノイカは深くため息をつくとアルバートを白い目で見た。
「あんた、本当に言葉足らずね……」
「良く言われる」
「別に私に対して返事しなくていいのよ、このおたんこなすっ!」
ノイカの似非お嬢様言葉が炸裂するも、ここにはツッコミ要因は誰もいないため、アイにもアルバートにも見事にスルーされてしまっていた。
ここにカイトたちがいたら直ぐに『出た、ノイカの似非お嬢様言葉』と反応してくれていただろうに。
そのことに少し寂しさを覚えるも、ノイカはめげずにアイへと説明を続けた。
「こいつ、銃の腕
「えっと、挨拶も無しに銃を撃つってことかな」
「そうよ。最低でしょ」
流れるように罵倒されているもアルバート自身は気にしていないらしく、何故か誇らしそうにしている。
どや顔とも呼べる表情なのだが、彼も顔の筋肉が硬いのか、あまり変化はないように見えた。
ノイカの説明は正しかったらしく、アルバートは肯定するように二、三回頷いた。
「レジスタンスの奴は全員、初めましてでちゃんと発砲したな」
「うん。最低だね」
最低と言い切るノイカにアイは若干のためらいを見せていたのだが……。
反省する様子がアルバートに全くなかったために、今度は遠慮なくその言葉を吐いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます