第47話 責めることなく前へ
彼女はひとしきり声を出すと、少し冷静さを取り戻したようで、バツが悪そうに毛布に
どんなに流しても彼女の瞳から雫が枯れることはなく、ぽたぽたと零れ落ちては毛布へと吸い込まれていく。
彼女は先ほどとは打って変わって、鼻をすすりながら嗚咽を漏らした。
「……わかってる。本当は、わかってるの。……あそこで飛び出しても、私が死ぬだけだって。なんにも、出来ないんだって。……わかってた」
途切れ途切れになるも何とか伝えようとノイカはしゃくり上げながらもそう続けた。
アイは静かにノイカの傍へと近寄ると、クインがノイカにしてあげたように、彼女と目線を合わせるために床に膝をつく。
毛布の中で小さくなりながら泣く彼女の姿は、普段の様子とは違い、どこか幼い印象を受けた。
「さっき、あんたに、酷いこと、言ったのだって……! ただの八つ当たり、なんだって……本当は全部、分かってるのよ……!」
人にあたることしかできない自分という存在がなんて情けないことか。
ノイカはまたもや自分を責めるたてる。
――自分が生きていたって、どうしようもない。
リゼルのように体格や身体能力に恵まれているわけでも、アビーのように聡明なわけでもない。
ましてやカイトのように皆を引っ張る魅力など、何処に持ち合わせているというのか。
ノイカは毛布の中で膝を抱えて座り込む。
アイは何かを熟考している様子だったが、ゆっくりと彼女へ向かって語り掛けた。
「今言ってもキミを追い詰めるだけだと、シミュレーションではそう結果が出ている。だけど言わせてほしい」
ノイカは相槌を打つことなく、耳を傾ける。
呼吸なんて必要ないはずのアンドロイドだというのに、声を発する前の息を吸う音が何故か聞こえた気がした。
「キミの仲間が死んだのは、キミのせいではない。もしかしたらキミは『どうして自分だけ生き残ってしまったのか、自分なんていないほうが良かったんじゃないか』と自分のことを責めているかもしれない」
アイはクインが話していたノイカのことを思い出す。
『……それでも、あの子は自分を責め続ける。真面目で優しい子だから、きっと自分のことを許せないと思うのよ』
仲間思いで優しい人間だからこそ、自分を責めてしまうのだと、クインは言っていた。
だけどアイはそれを理解できなかった。
彼らの死はノイカのせいではないのに、どうして彼女が責められなければならないのか。
その責める人間が
心のないはずのアンドロイドは、彼女が自分を責めることなく、前へ進んでいけることを願った。
理由は分からない。
ただアイがそうしたいと、そう考えたのだ。
「でもね、ボクはキミがいてくれて良かったと思っている。キミとスクラップ場で出会えていなかったら、ボクはあそこで他のアンドロイドと一緒に溶鉱炉で溶かされていた。ボクという存在が世界から抹消されて、新しいアンドロイドの部品として生まれ変わっていた」
ノイカはまさかアイに心の中を言い当てられるとは思っていなかったようで、彼女は毛布越しに動揺している。
減らず口で可愛くないことを言うこともなく、ノイカは膝を抱えた状態のまま、少し毛布から顔を出してアイの様子を伺った。
「ボクはそうなるわけにはいかなかった。
ノイカの瞳に映るのは感情のかけらも感じられないアンドロイドの顔、そのはずだ。
だがアイの顔から何も感じないなどと言うことはなかった。
ノイカを励まそうとして、これまでと同様、思ったことを口に出しているのだろうと分かる。
「キミは要らない人間なんかじゃない」
他人からもらう一言は、自分自身に向けるものよりもこんなに強かったのかとノイカは改めて気付かされた。
自分を否定した数百もの罵詈雑言はいつの間にかどこかへ流れてしまっていて、彼女は胸がじんわりと暖かくなる。
「……あんた、思ったこと全部言うじゃない。本当に、心理カウンセリング用アンドロイドなの?」
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