第44話 改めて、初めまして
ノイカの傍にずっといるのもかえって彼女の負担になってしまうからと、彼女を一人ベッドルームに残し、クインとアイはブリーフィングルームへとやってきた。
アイがこのセーフハウスへ到着して、ノイカをベッドに寝かせてからほどなくして彼女の目が覚めたため、彼らはあの通信以降会話する暇がなかったのだ。
クインは少しためらいながらも、アイへ声をかけた。
「えーと、貴方、『アイ』って言っていたかしら。私はクイン。自己紹介が遅くなってしまってごめんなさいね」
彼はアイに向かって名乗ると右手を差し出す。
ノイカに同じことをやった時は怪訝そうな顔をされたというのに……きっとこれは人間でいうところの『個体差』というものなのだろうとアイは一人納得して、クインの手に自分の右手を重ねてしっかりと握った。
「クインだね、よろしく。それで、ボクに聞きたいことがあるのかな」
アイのその一言に、クインが驚いたように目を見開く。
気付かれると思っていなかったのか、彼は素直に「驚いたわ」と感想を声へと出した。
「気付いていたの……?」
「うん。『ノイカを一人にしてあげよう』という提案をされた時に、少し落ち着かなさそうにしていたから。『一人にしてあげたい』というのはキミが本当に思ったことだろうけど、でもボクに何かを聞きたいから、わざわざ二人で一緒にこの部屋に来た」
「アンドロイドにしては随分察しが良いのね」
「察しが良いだなんて初めて言われた」
アンドロイド養成所の時もノイカと行動していた時も、『思ったことを素直に言う』としか言われてこなかった。
それは察しが良いという言葉の真反対にある……つまるところ『空気が読めない』という意味で言われていたのだ。
クインの感想に新しい発見をしつつアイは手を頭にやり、己のメモリに今の出来事を書き込む。
その仕草を見たクインがアイに対して酷いことを言ってしまったのではないかと思ったのだろう、申し訳なさそうに眉尻を下げてアイの目を見た。
「今のは嫌味じゃないのよ。気を悪くしていたらごめんなさい」
「大丈夫、キミに敵意がないことは分かっているから」
「あら、随分信じてもらっているのね」
通信時からアイがクインに対して抱いていた印象だった。
彼はアンドロイドという存在に対しても最初から敵対心をむき出しにすることなく、対話しようとしてくれる。
それはアイがノイカを救っているという証拠があったからという理由が大きいのだが、アイはそのことに気が付いていない。
「それで、聞きたいことって何かな」
再度アイが聞き直すと、クインはしばし沈黙する。
上手く質問がまとまらなかったのだろう、彼は数秒考えこんでから、ゆっくりと唇を開いた。
「……ノイちゃんが『助けられなかった』って言っていたでしょう? セントラルタワーで何があったのか、聞いてもいいかしら?」
「良いけれど、あまりお勧めはしないよ」
クインは良くない想像をしたのか、顔をこわばらせる。
彼
「ノイカがあそこまで取り乱していたのは内容が凄惨だから。それでも聞きたいのなら、話すよ」
「ええ。構わないわ。お願い」
長話になることが分かったクインは、ブリーフィングルームに備え付けられている机に腰を掛ける。
アイは特にその場から動くことなく、今までの体験をありのまま彼へと話した。
ノイカがカイト達とはぐれ、スクラップ場に落ちてきたところで彼女に会ったこと。
サーカスで遭遇した趣味の悪いオークションや劇のこと。
もちろんあの三人の死に際についても、アイは包み隠すことなく詳細にクインへと説明した。
ノイカが彼らを助けに行こうとして、それをアイが止めたことも。
彼らがどのようにしてステージ上で殺されたのかも。
クインは途中で質問をすることなく、ただ静かにその話を聞いている。
やはり顔色は芳しくなく、アイがサーカスでの出来事を話しているときには、クインがその出来事を体験したのかと錯覚してしまうぐらいに、彼の顔は青を通り越して真っ白になっていた。
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