第39話 安全な場所を求めて

 薄暗い地中通気ダクトの中をアイは歩く。


 気を失った人間を抱えているというのに重たそうなそぶりなど見せないあたり、やはりアンドロイドは頑丈に出来ているようだ。


 阿鼻叫喚のあのテントから抜け出し、人目につかないように地中通気ダクトまで逃げられたことは、不幸中の幸いと言って差し支えないだろう。


 だがセントラルエリアから逃げられたとしても、アイには頼れるあてはない。


 ならばどうすればいいのか。どこへ向かへばいいのか。


 彼が脳内でかけた検索の結果は『イーストエリアへ移動する』だった。



 AI統治国家は、中央に位置するセントラルから扇状に分かれた4つのエリアから構築されており、エリアはそれぞれ『イースト』、『ウェスト』、『サウス』、『ノース』という名前で分けられていた。


 名前の通りセントラルから見てどの位置にそのエリアがあるかで名前を付けられているのだが、この事実を知っているものはあまりにも少ない。レジスタンスにも一人いるかどうかといったぐらいである。


 ただ、エリアそのものの名前はAI統治国家にいるものならば誰でも知っている。

 またエリアごとに役割が与えられており、そのことも周知の事実であった。


 イーストエリアは農業地区として割り当てられたエリアで、AI統治国家で唯一、作物を育てている場所であり、多数の人間がいるエリアだ。

 ……とは言っても一面畑だらけで住むところなどはほとんどない。


 めぼしい建物と言えば、収穫した作物を格納しておく巨大な倉庫が点在しているぐらいである。


 主に栽培されるのは小麦と大豆で、その両者を混ぜて作られるスティックタイプの即席食がこの国で供給される人間の食事であった。


 残りの地区と役割はそれぞれ、ウェストが上流地区、サウスが工業地区、ノースが中流地区と分かれている。


 上流や中流と言った単語で階級を区別しているが、アンドロイドの中に身分差別などはない。これはあくまでも人間たちを区別し、そして管理するために作られたものである。


 AI統治国家においてウェストやノースに住む人間たちは衣食住に始まり、あらゆる面に関して保証されている。生きていくのに困ることはまずない。

 そのためイーストエリアやサウスエリアの人間たちは皆、その階級を目指し勤勉に、真面目に働き続ける。


 困ることがないというのはつまり、アンドロイド……その上のマザーに飼われて生きていくということなのだが、大半の人間たちは目先の欲にかられ本質を見失っていた。


 異常がないと診断された人間たちだけが入れる場所、それがウェストエリアとノースエリアだ。


 そのためマザーの監視はイーストエリアやサウスエリアとは比べ物にならず、ウェストエリアとノースエリアの警備体制はセントラルに匹敵するほど厳重になっていた。


 ましてや今はセントラルタワーにレジスタンスが侵入したとアンドロイドたちにも通達されているはずである。


 そのためウェストエリアとノースエリア方面の地中通気ダクト内にもアンドロイドが配置されている可能性が極めて高い。


 アイは安全を考慮してその二つのエリアを候補から除外した。


 ではサウスエリアはどうなのかと問われれば、こちらもあまりいい選択とは言えなかった。


 このエリアは全エリア内で最も生活する人間が多くいる場所になっている。

 イーストエリアで働いている人間もサウスエリアに居住地を有しており、サウスエリアの最もイーストエリアに近い場所に住んでいた。


 だが工業地区にはアンドロイドの製造工場がある。そんなところで万が一にも囲まれてしまえば今度こそ逃げる手立てはないだろう。


 アイはそれも加味して、一番警備が薄そうなイーストエリアへ目的地を設定したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る