第33話 カウントダウン
「こちらは我らが聖地、セントラルタワ~に不法侵入していた、反乱分子でございます~!」
メインディッシュと言われていたからか、観客たちは彼らが入って来るや否や、盛大に雄たけびを上げて、ショーを盛り上げようとしている。
ただ嬌声を上げているというのに感情が全く乗っていないため、ちぐはぐで異様な光景であった。
ノイカにとっては激しく耳障りな声もラディにとっては嬉しい声援となっているようで、『前座の劇』として人間をいたぶり殺した後よりも満足げに笑みを浮かべていた。
「おお~、皆さま、歓声ありがとうございます~! ……ん? なになに……? こいつらはオークションしないのかって? まさかまさかぁ! そんなことしたら僕が処分されちゃいますよ~」
誰に処分されてしまうのかは言及していなかったが、オークションする気がないのは本当の事らしく、観客からの野次が飛んできてもラディはのらりくらりと言葉巧みにそれをかわしていた。
主催者とオーディエンスの楽し気なトークとは裏腹に、ノイカの焦りは募っていく。
――助けないと! 助けないといけないのにっ!
力いっぱいアイを押しのけているはずなのにびくともしない。
ノイカは何度も自分が出せる最大の力で押しのけているはずなのに、アイはバランスを崩すことなくノイカをがっちり抑えていた。
「そろそろ準備が整ったみたいですね~。それじゃあ、参りましょう! 演目は〜……劇終盤で発表いたしま〜す! どのような演目だったのかも含めて、皆さま考察を楽しんでくださいませ~」
先ほどまでステージ全体についていた電気が一気に落ち、そしてステージ中央にいるラディにのみスポットライトが当たった。
明るかったところから急に暗くなってしまったために目が環境についていけず、ノイカはカイト達の姿を見失ってしまう。
その間にも何やらステージ上で動きがあるようで忙しなく動くアンドロイドの音だけが不気味に響いていた。
ラディが真剣な表情で黒子のアンドロイドに斧を預け、そして入れ替わりで剣を手渡される。それを床に突き刺すと、その上に両の手を持っていった。
その芝居がかった動きに、これからお話が始まるのだとこの場にいる誰もが
「緞帳の幕が上がる」
静寂、そののちにスピーカーにノイズが走る。
そしてラディの重苦しい台詞とは裏腹に、音量の設定ミスなのではないかと思うぐらいの爆音で明るい曲が一気に流れ出す。
先ほどまでのダークな雰囲気などなかったかのように、ラディは破顔一笑した。
ふわふわの金髪を揺らしポップなメロディに合わせて器用に踊る。
照明も色とりどりに彩られ、まるでおもちゃ箱のような煌びやかさで客席とステージを照らしていた。
「スリー、ツー、ワンッ! レッツゴ~!」
ラディの合図でテント内の全照明が点灯した。
ノイカは目がくらむ中、明るくなったステージを確認すると、電気が落ちる前まではなかった仕掛けや武器がところどころに配置されていた。
カイト達も彼女が瞬きする前とは別の位置、ステージ上で三角形をつくるように、それぞれ散り尻に配置されている。
アビーとリゼルはノイカの位置からは遠く、そして何の因果なのか一番近くにカイトがいた。
楽しそうに跳ねる三連符に合わせて黒子アンドロイドたちがダンスを披露する。
どうやら場を盛り上げるために創られた余興らしいのだが、ノイカにとってはただ煽られているようにしか感じられない。
流石に曲が始まる前と後の落差に、観客たちも一瞬ついて行けなかったみたいだったが、すぐさまラディの創り出す世界が『正しい』ものなのだと理解する。
流れて来る愉快な曲のリズムに合わせて体を揺らしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます