第29話 サーカス
近くで見上げるテントは遠くで見る時よりも更に存在感があった。
人の波に逆らう訳にもいかず、ノイカたちは観客に流されるようにテントの中へと入っていった。
中も外から見た時と同様に天井が高くなっている。
ショーが始まる前に観客を飽きさせないよう曲が流れており、建物内がドーム状になっているからか音が良く響いていた。
中央の円形ステージを囲うように観客席が備え付けられており、後ろの座席でもステージが見えるように全体的に傾斜がつけられているみたいだ。
観客たちは各々自分の席を探しながら歩いている様子だった。
「あそこがバックステージに繋がっている」
ノイカは座席を探す体裁を整えつつ、レジスタンスの仲間が捉えられている場所を探していると、アイが裏口に繋がる場所を見つけた。
どうやらテントとバックステージがつながるところはそこにしかないようだ。
そちらへ走り出しそうになるノイカの腕をアイが再度掴む。
「キミの仲間が本当にあそこにいるとは限らない」
「そう……だけど……」
小声でやり取りしているので周りには聞こえていないが、いつまでもアイに腕を掴まれている状態を続けるのは良くない。
ノイカは気持ちが急くのを堪え、「こっち」と道案内をするアイに言われるがまま、彼女は彼の後ろをついていった。
◇
アイに連れられてきたのは客席の中でも椅子もない立ち見席で、ここは幸運にも中央ステージとバックステージに繋がる入口からほど近い場所だった。
ちらりとノイカは付近の客席へと視線をやる。
これからショーが始まるというのに、楽しそうには全く見えない。アンドロイドの表情が変わることがないから、そう見えたのかもしれないが。
もっとひどいのは人間の方で、彼らは皆、生気のない目でステージではなく己の足元をぼんやり眺めていた。
ノイカはバックステージを確認すると、観客席側からはいけない様に簡易的なフェンスが置かれていた。フェンスとは言っても高さがないため、飛び越えるのは難しくなさそうだ。
ノイカの頭はカイト達を助ける算段をつけるのに必死で周りの状況は一ミリも見えていない。
そんな前のめりになる彼女の視界を遮るように、アイは彼女の前に立ち、耳打ちをして来た。
「ノイカ、あまり前へ出ないで。ここからは見えにくいけれど、監視がいる」
アイはノイカにだけ聞こえる声でそう言うと、彼女の横へと戻る。
彼女自身はそこまで身を乗り出しているつもりはなかったため、ムッとした表情をしていたが、ほどなくして彼の言葉が正しいことを理解した。
低いフェンス越しに警備役のようなアンドロイドが四体いるのが見える。
普段の彼女だったら見逃すはずもないぐらいはっきりと見える位置にいたのに、やはり冷静さを欠いているのだ。
ノイカだけでここに来ていたら間違いなくあのアンドロイドたちに捕まっていた。
いかに自分の気が動転しているのかをまじまじと突き付けられたノイカは、苦虫を嚙み潰したような顔になっていた。
「……助かったわ」
「あそこからバックステージに行くのは無理だね。かといって他に侵入口も無い」
「どうするの?」
「とりあえず、ここで様子を見るしかないかな」
今はショーが始まる前で客席の方も照明が明るい。動くのは得策ではないとアイは判断したのだろう。
ノイカにとってはもどかしいことこの上ないのだが、彼女も状況を把握しているためにそれ以上何かを言うことはなかった。
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