第30話 悪趣味なオークショニア
彼女たちが立ち見席へ移動してから、ほどなくして客の流動が落ち着いてきた。
それを見計らったかのように段々と客席の照明が落ちていき、そしてテント内に流れているBGMが徐々に消えていく。
ざわざわとした音を発していた観客たちはBGMがなくなったことに気が付いたものから動くのをやめて、辺りが静寂に包まれた。
完全に真っ暗闇の中、一度は止んだ音楽が再度音量を上げていく。
ショーが始まる前のオープニングテーマのようなものなのだろうか、音楽が鳴ると何処からともなく光がやって来た。
それは一つだけでなく、赤や黄色など色鮮やかに輝いていて、様々な場所から突如現れていた。蛍のような光は暗闇の客席を一通りめぐると中央のステージへと集まってゆく。
すべての光が集まった瞬間に、ステージ中央を別の照明が眩いばかりに照らした。
そしてその真下には先ほどまでそこにはいなかった小柄な
「レディ~ス、ア~ンド、ジェントルメ~ン! ウェルカム、トゥ~、フラウィウス・カンパニ~!」
空回りなぐらい明るい調子のテノールは、先ほどスピーカー越しに聞いたものと全く一緒だ。機械音交じりのこの声は紛れもなくアンドロイドのものである。
ステージ上にいるアンドロイドは左手で被っているハット帽を取りそのまま背面へ持っていくと、右手を胸に当て恭しく一礼をした。
金髪碧眼の整った顔は自信気に笑みをたたえている。少年とも少女とも言えそうな顔立ちではあるが、先ほどの声を聞く限り、男性モデルのアンドロイドのようだ。
アンドロイドはふわふわの髪を揺らし徐に顔を上げる。トレードマークのハットをかぶり直し、耳にかけたマイクの位置を調整した。
「皆さま、本日は足をお運びいただきありがとうございま〜す! 当劇団の支配人、ラディより心からの御礼を申し上げま〜す!」
ステージを歩くラディの姿をスポットライトが追いかける。
芝居がかった動きをするラディに、ノイカは思わず演劇を見ているかのような不思議な感覚に陥っていた。
「さて本日ですが、先ほどアナウンスさせていただいた通り、本編の前に『ビックイベント』がございま~す! 本来ならばここで盛り上げるためのエチュードをするべきなのですがぁ〜……皆さまイベントの内容が気になりますよね〜? な・の・で! すぐに始めちゃおうと思います〜!」
ラディの掛け声でバックステージからアンドロイドたちが何かを引きずるようにしてステージへと上がって来た。
ノイカはその引きずられてきたものを視界に入れ、絶句する。
「昨日我が同志たちによって捕まえられた反AI組織の人間たちで~す! 本日は特別に! こちらのオークションを開催いたしま~す!」
連れてこられた人間は皆、セントラル解放作戦にて地上での戦闘部隊になっていた仲間たちだ。
今連れてこられたのは八人だけだったが、恐らくは他のメンバーもほとんど、捕まってしまったのだろう。
――せめて武器があれば……!
もしノイカが武器を持っている状況だったとしても多勢に無勢なのは変わりないが……理屈では分かっていても、どうしたって感情は追いついてこない。
先ほどから何度もアイに衝動的に動きそうになるのを止められている。
まずは様子を見るのに専念しようと、ノイカはぐっと堪えた。
連れてこられた八人は真っ白で粗末な服を着せられており、囚人のように後ろ手で拘束されていた。
彼らがステージ中央へ一列に整列させられると、ラディが左端に座らされた女性の髪を乱暴に掴み顔を上げさせる。
ガタガタと震える彼女は恐怖からだろう顔色が真っ青になっていた。
「では、こちらの女性から! スタートは10Pからです!」
AI統治国家では現金通貨のやり取りはなく、すべて
アンドロイドたちが使うためというよりも人間の管理のために作られたものなのだが……それを用いて『人間』の売買を行うというのは悪趣味と言って差し支えないだろう。
「100!」
「200!」
彼女の金額は止まりそれ以上の額を出すアンドロイドがいなかったため、200を出したアンドロイドへと落札されることになった。
勿論ここでアンドロイドの元へ行ったとしても彼女の未来がよくなることはなく、一生アンドロイドのもとで家畜のように過ごすか、飽きたら処分されるかの二択を迫られることになるのだろう。
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