第19話 共存できる世界をつくるために
――いや、これも何かの作戦かもしれないわ。
ノイカは思考の波に飲みこまれそうになるのをぐっと堪える。
こちらの油断を誘うための行動であれば、感情的になるのは敵の思う壺になってしまうだろう。
暫しの沈黙の後、考えがまとまったらしくアンドロイドは顎に運んでいた手をゆっくりと下ろした。
「協力してほしいんだ」
「協力……?」
「
――こいつ、何を、言っているの?
人間の尊厳と自由を奪い管理してきたアンドロイドが何故、『人との共存』などと言い始めたのか。過去に対話を試みた人間を無下に扱い
武力に頼らない方法を模索するなどという段階はとっくの昔に終わっているだろう。
ノイカは悔しさから唇をかみしめる。
――どの口が
志半ばで死んでいった仲間たちと今も戦っている仲間たちのことを思うと腸が煮えくり返る。
武器もない、増援も呼べない。
どうせ死ぬのならば
武器がなくてもまだ
ダメになるまで目の前の敵を殴って殴って殴って殴って、使えなくなったら次は足を使えばいい。
ノイカは殺気を隠そうともせずにアンドロイドへと近づくも、アンドロイドのほうはそんな彼女の様子に気が付きもしないのか話を続けた。
「ボク一人の力では何もできない。だから、キミに助けてほしい」
『助けてって言えばいいんだよ』
アンドロイドの声と記憶の中に大切にしまっていた声が重なる。
あの時とは逆……自分がまるで彼の立場になったかのように思えて、自然と握りしめていたこぶしから力が抜けていった。
もし自分ではなく彼が同じ状況に立たされているのならば、なんて答えただろうかとノイカは考える。
……きっと彼はこのアンドロイドの発言を
『一人じゃどうしようもなくっても、二人だったらどうにかできるかもしれないだろ?』
殺気立っていたことも忘れ、頭から響いてくる声に耳を傾ける。
ノイカはそこで初めてアンドロイドの顔をしっかりと見た。
血が通っていないはずの瞳はただノイカを映し出しているだけのはずなのに、どこか芯があるようにも感じられる。
ノイカにはまだないその核となる部分をこの目の前のアンドロイドが持っていることに驚きと少しの羨望が混じった。
アンドロイドの後ろにふと彼の姿が見え、黄金色の瞳とノイカの視線が交わった。
たとえノイカが見ている幻想だったとしても、ノイカがその声に耳を傾けないなんてことはあり得ない。
彼が得意げな顔で口を開くのと同時にノイカも頭に浮かんでいた言葉を口に出す。
『協力し合えばきっと』
「うまくいく」
そして全く同じタイミングで彼女たちは笑い出す。
急に笑い出したノイカをアンドロイドは不思議そうに見ると、何故笑っているのか分からないと言いたげに首を傾げていた。
――今までずっと傍にいたから思考がうつったのね。
ノイカは思いながら目尻にたまっていた涙を拭う。
一度の瞬きの間に彼の幻影は消えていたが、ノイカの気持ちはもう揺るぎないものになっていた。
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