第17話 浮遊、落下。そしてーー
「こんな状況で強気なの、面白いですねぇ」
「だって、俺らのこと殺す気なかっただろ。あんたら」
カイトの予想外の言葉にノイカは目を見開く。あんなに銃を撃ってきていたというのに殺す気がなかったなんて本当だろうか。
しかしノイカの疑いはすぐに晴れることになる。
余裕そうに拍手をしていたアンドロイドがその手をピタリと止めたのだ。
「おやおや。気が付いていたんですか」
「そりゃな。あんな出力のレーザーじゃ、死ぬまでには至らない。殺すんだったらもっとこれぐらい出さないとなっ!」
カイトが言うや否や放たれたレーザーは的確にアンドロイドの左目を貫通する。
撃たれた敵が衝撃のまま後ろへ倒れる瞬間に、ノイカたち三人が瓦礫の中から飛び出した。
逃げろと言ったのに交戦中の敵との方向に走ってくる彼女たちが視界に入ると、カイトはアーモンド形の目を大きく見開き、そして不敵に笑う。
言葉を発していないのにノイカは不思議と皆が考えていることが分かった。
誰か一人が欠けてもいけない、欠けることなく全員で成功させなければ意味がない。そう心が叫んでいるのだ。
『俺たちで成功させるんだ、この作戦を』
カイトのあの言葉が決め手になったのかは定かではない。
だけどノイカたちの中にあった不安と恐怖はいつの間にか姿を消していた。
「リゼル、行って!」
「うおぉぉおおお!!!!!」
アビーがリゼルへ声をかけるとリボルバーを発砲する。攻撃を目的としているものではなく、他二体の気を引くための行動だった。
アビーが全弾打ち込んだ瞬間、リゼルが一気に敵との距離を詰める。
一体目に瓦礫を投げつけて時間を稼ぎ、そのまま攻撃を続けるように見せかけて二体目のアンドロイドへと突撃し、自慢の体躯でアンドロイドを張り倒すとそのまま組み付いて動きを止めた。
瓦礫を投げられた一体目のアンドロイドがリゼルのほうへ注意を向けている隙にアビーが瓦礫とアンドロイドの合間をワイヤーで縫い付ける。
彼女はグローブ越しに手に血が滲むのを感じるも力を緩めることなく完全にワイヤーでアンドロイドを括りつけると、リゼルの援護へと向かった。
それを見計らってカイトとノイカが走り出す。完全に倒れた敵との距離は数メートルほど、倒れ伏した敵を確実に戦闘不能にするためにカイトは間合いを詰めアンドロイドへと銃口を向けた。
彼が引き金に指をかけた直後、突如アンドロイドが起き上がりこぶしのように起き上がり、倒れる前の状態に戻っていくではないか。
カイトは舌打ちを一つして
レーザー銃を撃たれたというのに尚も拍手を続けるアンドロイドはパチパチとこの場に不釣り合いな音を響かせながらにこやかに笑っていた。
「いやあ、驚きました。銃を奪って自力で調整しているだなんて。面白いですねぇ。とぉっても面白い」
笑みを貼り付けるアンドロイドの真意はわからない。ただ『面白い』なんて言葉は褒めているものではないのだろう。
カイトは返事をすることなく立て続けに発砲するも、アンドロイドは踊るように導線から外れるため一発も当たらなかった。
「ですが、貴方は危険ですねぇ。なら、排除しないと」
白衣のアンドロイドが柏手を打つと、リゼル達と交戦していた二体が拘束を破ってカイトへめがけて加速してくる。
車輪が瓦礫の上を通るのも厭わないのか、最短距離で突っ込んで来ていた。
カイトの背後には奈落へ続く空洞が待ち構えていて、あの速度でアンドロイドがぶつかれば間違いなく真っ逆様に落ちていくことだろう。
「廃棄処分の寄せ集めなのですから、最後ぐらい活躍してくれないと」
そういうと白衣のアンドロイドはカイトに向かって手を振った。
あまりにも親しげだからこのシーンだけ切り取ったら友人との別れを惜しんでいるようにも見えたかもしれない。
旅路が良いものであることを願っていると言わんばかりの態度だった。
「カイトッ!」
ノイカは力の限りカイトを突き飛ばす。
咄嗟のことに反応しきれずカイトはバランスを崩し、押し出し方式でカイトがいた場所にノイカがすげ替わった。
向かいあった彼と一瞬目が合う。
零れ落ちそうなほどに開いた金の瞳は驚きと焦りで染まっていた。
――カイトの余裕のない顔なんて初めて見た。
そう思ったのも束の間、側面から強い衝撃が走り視界が歪む。
「ノイカッ!!!」
倒れそうな体を持ち前の身体能力で立て直し、カイトはノイカに手を伸ばす。
あともう少しのところで彼の手は宙を切り、彼女はそのまま空洞へと引きずり込まれた。
ノイカの体が宙に浮く。
空を飛んでいるような心地は一瞬だけで、その後は重力に従い頭から放り出されてしまった。
見上げたタワー上部はやはり天辺など分かりもしない。
穴の中へと吸い込まれていくうちに周囲が闇に包まれいき、自分さえ分からなくなってしまう。
遠くに見えるタワー最上階はまるで一番星のように輝いていて、ノイカは縋るように手を伸ばしてみるも永遠に届くことはなかった。
暗闇に融けていく体であがくように星を追いかける。
そのうちそれさえも見えなくなって、何処が上なのかも分からなくなって――。
落ち続けていく感覚に身を任せ、ノイカは意識を手放した。
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