第16話 白衣の悪魔
――刹那、爆撃音が弾け飛ぶ。
あまりにも急なことだったのにも関わらずノイカは無意識に受け身を取っていた。
飛び散った破片が体にぶつかり小さな傷をつくっているが大事には至っていない。
先ほどまで物音一つ無かったというのに何がどうなっているのか。
ひとまずノイカは周囲を確認すると、幸いにも皆大きなけがをすることなくそれぞれ安全な場所へと退避して敵の姿を探していた。
急襲にあったのに全員が五体満足でいるのは奇跡に近い。
安堵もつかの間、耳を澄まさなくても
そしてその後ろから……恐らく車輪のようなものだろうか、それが足音を追いかけるようについて来ていた。
「あれえー? 死んじゃいましたか? 死んじゃってたら困りますねぇ。怒られてしまいます」
声の主はわざとらしく間延びした喋り方をする。注意して聞いていなければ分からないほど肉声に限りなく近いが、これは間違いなくアンドロイドの声だ。
敵にまともに効く武器がカイトの持っている拳銃だけというのは、どうしたって状況が悪すぎる。
ここに来るまでに交戦したどの個体とも違うアンドロイドの登場に、ノイカは使い物にならない銃を握りしめた。
「残念ながら死んでねーよ」
挑発であると分かっているのにも関わらず、カイトは身を隠していた瓦礫からアンドロイドの前へと出ていく。
どうして、とノイカが思考するのと同じタイミングで彼は敵の死角になるように背面に手を持っていくと三人に向けてこう合図した。
『俺を囮にして逃げろ』
敵の情報がないにも等しい中、こちらが優位にことを運ぶのは不可能に近い。
だからカイトはこの状況を打破するために自らを犠牲にする手段を選んだ。
作戦を成功させるためにと許されたわずかな時間で彼が考え付いた最善の策だった。
――何をバカなことを言っているの。
だけどもノイカはそれを受容できない。カイトを一人残して逃げるだなんてそんなことできる訳がなかった。
ノイカはカイトと共に残る意思を伝えるため二人に視線をやったが、アビーとリゼルも同じ気持ちだったらしく、首を横に振っていた。
――別の方法で切り抜けることができるかもしれない。
ノイカは敵の死角を上手く使い、カイトの近くの瓦礫へと移動する。
どうやら敵はカイトに注目しているため彼女には気が付いていないようだった。
姿を見せたカイトに対して、話しかけてきたアンドロイドは大げさに拍手を送る。
他の個体とは違って白衣を着て眼鏡をかけた『研究者』のような出で立ちで、張り付けた笑みをカイトに向けていた。
「あれま、ちゃあんと生きてたんですね。よかった、怒られずに済みます。僕の前に出てきてくれたということは、大人しく投降してくれる、ってことでしょうかねぇ?」
「投降? 何言ってんだ、あんた。そんなことする訳ないだろ」
カイトは先ほどまで調整していたハンドガンを構えた。
実弾銃ではないのだがアンドロイドはそれに気が付いていないらしい、カイトの行動を「なんて無駄なことを」と言いたげに、だが笑顔は崩さず軽視していた。
話しているアンドロイドの後ろに控えた二体のアンドロイドも特に臨戦態勢を取っているようには見えない。
――それにしても。
ノイカは後ろに控えた個体を観察する。
膝より上は通常のアンドロイドと同じように人間のような姿かたちをしているのだが、ひざ下から何故かキャタピラーのような車輪がついている。
基本的にこの世界に存在するアンドロイドは人間を模した形をしており、人間と区別がつかないのが特徴的なのだが……目の前の個体はどうしてこんな姿になっているのだろうか。
話すこともなく佇む様子は、AI搭載型アンドロイドというよりはロボットに印象が近かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます