第14話 喧々たる攻防戦
――銃弾がリゼルを貫くことはなかった。
銃が放たれるよりも早くカイトがアンドロイドへと駆け出して、警棒を素早く敵へと振りかざしていたのだ。
そのまま決着がつくと思われたが、アンドロイドはいち早くカイトの攻撃に反応し、すれすれのところで急所を狙った警棒の導線から外れた。
ただ攻撃自体は的中しており、アンドロイドの右肩に断裂痕を作る。
高圧電流が流された肩部分は完全にショートしたらしく、アンドロイドの右腕は使い物にならなくなってしまっていた。
アンドロイドは表情を変えることなく動かなくなった己の右腕を見つめると、呟くようにカイトへ向かって声を発した。
「やりますね、貴方」
「そりゃ、どーも」
一撃で仕留めるつもりだったカイトは不服そうに賛辞の言葉を受け取る。
アンドロイドの方も褒めたと思えばすぐさま片手でアサルトライフルを構えた。もし同じことを人間がしたのならば、バランスが取れず四方八方に弾が飛び出てしまうだろう。これは無機物だからこそできる芸当だ。
カイトも再度警棒を構え両者のにらみ合いが始まるかと思われたが、突如アンドロイドの後ろから複数の足音がしてきた。
「おい! お前! 持ち場を離れるなと言っていただろうが!」
戦っていた個体とは別のアンドロイドがフロアへと入ってくる。
文句を言いながら歩いてくるアンドロイドはエントランスにて加勢を促していた個体と同一であり、そしてその後ろからまた別のアンドロイドが三体ついて来ていた。
「申し訳ございません。でも収穫がありました」
上下関係のようなものがあるのだろうか、交戦していたアンドロイドは一旦銃を下ろし報告をする。
文句を言っていたアンドロイドも視線をノイカたちに移すと口を噤んでしまった。
今まで一対四だったからギリギリ勝機があると思われていたが、敵数がこちらよりも多くなってしまったことで形勢が一気に逆転してしまった。
それに加えて、追加で来た四体も恐らく装甲の硬い個体なのだと推測できる。
この窮地をどう切り抜けたらいいのか、ノイカが悩むよりも先にカイトがノイカたち三人に向かってハンドサインをした。
『真ん中の奴を倒す。あいつらの後ろのドアから逃げろ』
合図が終わるや否や、カイトが飛び出す。
アンドロイドたちはカイトが突っ込んでくるとは想定していなかったらしい、銃口が狙いを定めきれない状態で宙をさまよっている間に、カイトは真ん中に立っていた……文句を言っていたアンドロイドの眼前へ潜り込むとシャフトをねじ込んだ。
的確にアンドロイドの眼球を抉り、そのまま勢いでシャフトが後頭部を突き破る。
相手がひるんだうちにカイトは警棒を引き抜き、その衝撃で前に倒れてきたアンドロイドの首を抉った。
先ほどまで五月蝿いぐらいの騒音を発していたアンドロイドは無音のまま地に倒れ伏す。
重力に従って落ちた結果、接続が脆くなっていた首が外れ、ゴロゴロと音を立てて転がっていった。
カイトが走り出したのと同じタイミングでノイカたち三人は扉へ向かう。
先陣を切るノイカの前に一体のアンドロイドが立ちふさがった。
どうやらこの個体だけはカイトではなくノイカたちに注意を向けたようで、ノイカに向かって銃を構え始めている。
……だが少し遅かった。
ノイカは腰に装着した警棒を右手で抜き素早く間合いに入った後、敵の背後へ回り急所を狙う。
カイトほどの威力はなかったため首が転げ落ちることはなかったが、高圧電流を流されたアンドロイドは二、三回ガクガクと動いたかと思えばすぐに機能停止してしまった。
ノイカが敵と対峙している間にリゼルとアビーがドアの向こうへと到達する。
そして同時に敵を倒したカイトとノイカもすぐさまリゼルたちの方へと駆け出していた。
彼女たちを追おうとするのは一番最初に交戦していたアンドロイドだけで、他は命令系統の要を失ってしまったことにより、ただその場に立ち尽くしている。
カイトとノイカが転がり込むようにドアの向こうへ入ると、彼らが来るのを待っていたリゼルがドアを乱暴に引く。
扉が閉まりきるその瞬間にアビーがドアをロックするプログラムを使用し、敵をフロアへと閉じ込めた。
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