第13話 恐れていた邂逅

 あれからどれぐらいフロアを上がっただろうか。

 ドアセキュリティの解除に苦戦していたが、それでも彼女たちは前進し続けていた。


 終点が分からない中、彼女たちの精神だけがすり減っていく。


 敵地の真っただ中では休憩すらままならず、特にアビーは頭脳労働も強いられているため疲労が顕著に表れており、フロアが変わるごとに難易度の上がっていくセキュリティを解除する彼女の目は涙と疲労のせいで赤く充血してしまっていた。



 ◇



 アビーが懸命にプログラムを走らせる中、ふと物音がした。


 しかも彼女たちがいるドア付近ではなく、この部屋へ入ってくるときに使ったドアのほうからしてきたのだ。


 耳を澄まさなくとも扉の向こうからコツ、コツとまるで人が足音を鳴らしているかのような音が聞こえており、確実にノイカたちのほうへ近づいて来ている。でもそれが人間でないということは言わずもがな彼女たち全員が分かっていた。


 場の空気が一気に張り詰めてゆく。

 アビーは注意が逸れそうになるのを懸命に堪えてドアロックの解除を急ぐも、足音が遠のくことはなかった。


 リゼルは拳銃に、ノイカとカイトは腰に取り付けた警棒へと手をかけ、臨戦態勢に入る。


 アビーが苦労して明けたドアからいとも簡単に入って来たに、ノイカとカイトは見覚えがあった。


 ――最悪の想定はしてたけど、まさかこんなに早く遭遇するなんて……。


 ノイカは心の中で独り言ちる。

 ゆったりとこちらへ近づいてくるアンドロイドはエントランスで遭遇した時と同様、感情など読み取れるわけもない顔でノイカたちに向かって口を開いた。


「やはり侵入者がいました。外の加勢よりも、こちらの対処のほうがずっと優先度が高い」


 淡々と機械音交じりの声でそう呟くと、アンドロイドはアサルトライフルの照準をノイカたちに合わせた。


 一瞬の静寂が彼女らを包む。

 息を飲むのもはばかられるような音のない空間で恐怖と緊張が渦巻いていた。


 引き金にかけられたアンドロイドの指がまるでスロー再生の映像のように動いていて、自分たちの命に手がかかるのだと理解した脳が本能的に『逃げろ』と声を荒げている。


 その警告に従いノイカたちは反射的に回避を行う。どうやら実弾ではなくレーザー銃のようで発砲音がほとんどなかったが、幸いにも放たれた銃弾がノイカたちにあたることはなかった。


「うおぉぉおおおお!!!!!!!!」


 そして受け身を取った流れでリゼルがハンドガンの弾を打ち込み続ける。

 一体ならば対処できると判断した結果の行動だったのだろうが、今の彼はおおよそ冷静に物事を見ることができていない。


 だからリゼルは全弾撃ち終わった後に気が付いた。


 このアンドロイドには実弾が効かないのだと。


 今まで攻撃を受けていたとは思えないぐらい表面には目立った傷すらない。

 アンドロイドは何かされていたのかと聞きたげに首を傾げると、呆然と立ち尽くすリゼルへ銃を構えた。


 早く逃げろと思考が急かしてくるのに、彼の足は根を張った木のように地に吸い付いてしまっている。


 即座に反応できなかったリゼルは直感的に死を悟った。


 ガラス球の瞳が無表情のまま、再度引き金へと指をかけて――

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