第12話 エラー、エラー、エラー、エラー

 静かなフロアに張り詰めた空気が充満している。


 順調に上へと進んでいたノイカたちだったが、ここに来てアクシデントが発生した。

 というのもプログラムを走らせても上手く解除できないセキュリティが出てきたのだ。


 警報装置に関してはハッキング前に止めているのですぐさま敵が来ることはないが、ずっとここに留まっていれば見つかるのも時間の問題だろう。


 アビーは緊張と焦りで手が震えているが懸命にハッキング作業を続けており、それを瞬きも忘れてリゼルが見ていた。


 エラーの回数が増える度にリゼルもアビーも顔色が悪くなっていく。


 元よりアビーは他人の状態に影響を受けやすい。そのためリゼルのように感情の上下が激しい人間が近くにいることが彼女にとって大きな負担になってしまっていた。

 己のペースを乱されないようにと気を付けていてもそう簡単にいくものではなく、とうとうアビーの瞳から一粒の雫が零れ落ちてしまう。


 そんな二人がいる扉とは別の扉の前で、カイトとノイカはこのフロアを違うルートから突破できないか探していた。


「右の部屋だったらいけるんじゃないかしら」


 ノイカがそうカイトに声をかける。

 ドアのセキュリティ端末が階下のものと同じだったため、解除できるのではないかとノイカは思い立ったのだ。


「でもさ、中に何かある気がすんだよな」


 カイトは自分の腕につけていたデバイスからアプリを起動させる。

 そのままホログラム越しに扉の向こうを見ると、詳細までは分からないが薄っすらと赤くなる箇所があった。


 ここに自分たち以外の人間はいない。

 となると人間ではない熱を発するものがそこにいるという話になる。


「でも今の扉を突破するのは難しいでしょう?」

「まー、そうだな。……アビー、こっちの扉のロックを解除してくれねーか?」


 カイトとノイカの頭の片隅に先ほどこちらを見ていたアンドロイドの存在がちらつく。

 ここにいることでアンドロイドに見つかる可能性が高くなっているのならば、早急に立ち去るべきだろう。


 アビーは服の袖で涙を拭い小さな声で「わかった」と答えると、カイトの指さすドアロックの解除を始めた。


 ノイカの読み通り扉の解除はすぐにできたが、如何せん緊張感は増すばかりである。


 カイトはリゼルに声をかけ、そして解除できたドアへと歩みを進めた。



 ◇



 中は他のフロアとは違い、物置小屋のように雑多になっている。


 カイトは死角だらけの中、物と物の間にオレンジ色に光る個所を見つけ、気が付かれないように影から様子を伺うと、そこには二体のアンドロイドがあった。

 壊れているようには見えないが、そのアンドロイドたちは糸の切れた人形のように微動だにしない。


 カイトはアンドロイドの様子を確認しようかとも思ったのだが、彼の勘が近づくなと警告を鳴らしていた。


 ――厄介ごとは避けたいしな。

 彼はアンドロイドたちの視界に入らないルートを選び、入ってきたほうとは別のドアを目指した。


 先行する彼の後ろを三人が置いていかれないようについていく。

 そしてようやく扉へとたどり着いたのだが荷物で道を塞がれてしまっており、カイトとリゼルは音をたてぬよう埋もれたドアを発掘した。


 どうやらセキュリティ端末は解除できたものと同じタイプだったようで、アビーはホッと胸を撫で下ろすとハッキングを始める。


 ほどなくしてセキュリティ解除が完了し、ノイカたちはフロアの更に先へ足を進めるのであった。


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