第6話 ターコイズ色の輝き

 先ほどのアンドロイドと交戦した場所からセントラルタワー方面に向かって十分ほど進むとE3ポイントが見えてきた。


 エリアとエリアの境の部分となっているためここは地中ダクトとは違いひらけている。

 目前には薄い電磁波の膜に覆われたセントラルタワーへの入口があるが、このまま進んでしまえば勿論すぐさま警報が鳴り響きここへアンドロイドたちが来てしまうことだろう。


「これをここに……よっし、へーきそうだな」


 カイトは懐から手のひらサイズのデバイスを取り出すと、バリアの端に設置されていた機器の傍へこれを置いた。


 特段稼働音などは聞こえないがちゃんと機能しているのだろうか。

 ノイカは心配だったのだが、設置直後にクインから彼女たちの端末に『設置を確認したわ。ありがとう』というメッセージが飛んできたので問題なかったらしい。


 クインからの依頼も終わらせたけれど、肝心のアビーとリゼルがポイントに到着する気配がまるでない。

 もしかしたら彼らも自分たちのように巡回中のアンドロイドと遭遇し、交戦している可能性があるのではないだろうか。


 不安に駆られるノイカを見越してかカイトは彼女の傍へ来ると肩をポンッと叩いた。


「あいつらなら大丈夫だって」


 何の根拠もない言葉でもノイカの不安を打ち消すのには十分だった。カイトが言うと本当に大丈夫な気がしてくる。


「そうだ。良いもんやるよ」


 そう言うと彼は首にかけていたペンダントを取り彼女へと差し出した。


 め込まれた石が眩しいほど水色に輝いている。地中ダクト内はLEDで照らされているとはいえ、ペンダントの奥深くまで届くほどの光源ではない。つまるところ石が自ら発光しているのだ。


 美しくもどこか芯のある水色の光にノイカは自然と気持ちが落ち着いてきた。


「何よ、急に」

「お守り。ノイカが安心できる様に」


 カイトの予想外の行動にノイカは差し出されたペンダントを受け取りもせず、ただ彼の顔を見つめる。

 彼も何も言わず数秒彼女と目を合わせていたが、いつまで経っても動かない彼女にしびれを切らし、彼はペンダントを彼女の首へと付けた。


「おーい、ノイカー?」


 彼は彼女の眼前で手を軽く振ってみるも情報を処理しきれていない彼女はまだ固まったままで、これはチャンスと思ったカイトはぽかんとしているノイカの頭を撫でた。


 頭に乗った感覚に彼女の思考も段々とクリアになっていき、徐々に鼓動が早さを増していく。

 汗の滲んでいた手をショートパンツの裾で拭くと、彼女は彼の手を軽く叩いた。


「ちょっと、頭撫でないで!」

「へいへい、ごめんなー」


 ブリーフィング前には聞けなかったノイカお決まりの構文にカイトは満面の笑みを見せた。


「何笑ってんのよ」

「いや、べっつにー?」

「ニヤニヤしないで頂戴。ムカつくわ」

「ひっでー言われよう。前は可愛げあったのになぁー、ちゃん」

五月蝿うるさい。というかその呼び方、前にも嫌って言ったわ」

「クイン達はそう呼んでんじゃん」

「そうね。でもあんたは駄目」

「なんでだよー」


 軽口を叩きながらノイカは首にかけられたペンダントを防弾ベストの中へと入れ込む。

 

 そうしろとカイトに言われたわけではない。ただ何故か彼女自身がそうしなければいけないと思ったのだ。


 その姿を見てカイトが何かを伝えようとしたその瞬間、ノイカたちが来た方向とは別のダクトから足音が聞こえてきた。

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