第5話 少しの胸騒ぎ

 ノイカに死角を突かれたアンドロイドは迎撃態勢を整えるため数歩後ずさりをする。

 銃を構え彼女に照準を合わせようとするその瞬間をカイトは逃さなかった。


 ノイカが射線に入らないように角度をつけて彼はアンドロイドへと銃を撃つ。

 カイトもまた走りながら引き金を引いているのだが、動いているとは思えないぐらい正確にアンドロイドへと的を合わせていた。


 一、二発目はアンドロイドが持っている武器を落とさせるための発砲。

 三、四発目は直接アンドロイドを戦闘不能にするためだったのだが、三発目の弾丸を撃ち込んだところでカイトは少しの違和感を覚えた。


 ――なんだ、この感じ。


 今まで戦った敵とはどこか違う……まるで銃撃が効いていないような感覚だった。

 こういう時のカイトの勘は恐ろしいほどよく当たる。戦闘中は頭をフル回転しているからなのか、直感が磨かれているのだ。

 彼は思考する前に銃で敵を殴りつけると腰から警棒を取り出し、近接戦へと切り替えた。


 彼らレジスタンスが持っている警棒はただの警棒ではない。

 普段は持ち手部分のみしかないのだが持ち手のボタンを押すとセンサーが反応し、高圧電流で構築したシャフトと呼ばれる攻撃や防御に使う棒の部分が出てくるようになっている。イメージとしてはブレードの短いライトセーバーが近いだろうか。

 

 シャフトを流れる高圧電流についてはアンドロイドに有効なため、彼らの間では重宝されていた。

 メリットが大きい反面、エネルギー消費が激しいためバッテリーをストックしなければいけないデメリットも存在している。

 バッテリーが切れてしまえばただの持ち手だけになってしまう代物だ。今長く使えばその分、この後の作戦に響く。


 ――ここで決める!

 カイトは目にもとまらぬ速さでアンドロイドの後ろを取ると首元めがけて振り下ろす。

 バチバチッと火花を散らしながらシャフトは的確にを抉っていった。


「反乱分子を発見しました。スみヤカ……ニ排……」


 アンドロイドはカイトを視界に入れを発するも彼が突き刺した警棒の電流によりショートしてしまったようで、焦げ臭い匂いをまき散らしながらガクガクと動いた直後、完全に機能停止しその場に崩れ落ちた。


 決着がすぐ着いたことにカイトは胸を撫で下ろすと警棒の電流を止めた。


「カイトッ!」


 彼の言われた通り走り抜けたノイカは後ろでどんな攻防が行われていたか全く知らない。

 奇襲というアドバンテージがあったとはいえカイトの安否が心配だったのだろう、不安そうに眉尻を下げて彼のもとへと駆け寄る。


 彼に怪我がないことを確認するといつもの釣り眉に戻っていた。


「怪我でもしたんじゃないかと思ったのだけれど、流石ね」


 先ほど倒したアンドロイドの違和感が頭をもたげていたため、カイトはノイカのお褒めの言葉に素直に頷けない。

 一瞬感じただけだったので確証はないが、発砲した際に感じたアンドロイドの硬さは今まで戦ってきたどの個体とも違っていた。ただの杞憂で終わってくれればよいのだが、カイトの『勘』がざわついて落ち着かなかった。


 だけど今すぐにこの話を彼女にすることはないと彼は判断する。

 敵襲があった直後だと不安を煽りかねない。出来ることならアビーたちと合流した後に情報共有するのが良いだろう。


「まーな!」


 ノイカに悟られぬようにカイトは笑った。

 彼女は彼を不思議そうに見つめるも、普段から真意を隠し慣れている彼の挙動にそれ以上の怪しさを見つけることはできなかった。


「さ、追加の敵が来ても困るし、さっさとポイントへ向かおうぜ」


 いつもと変わらない様子で笑うカイトの言葉にノイカは首を縦に振ると彼の背中を追いかける。


 二人は静かに息をひそめる胸騒ぎを押さえつけ、それを振り切るように足早にポイントE3へと向かうのであった。

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