雰囲気だけでもイケメンになりたい
「……………」
「どうしたんだ……?」
「会った時からこんな感じだよな……?」
すまねえ……本当にすまねえ晃弘も武も。
(……全然集中出来ねえぜ)
今日は約束したように俺も璃音も、互いに親しい友人たちと遊ぶ約束をした日だ。
俺は晃弘と武、璃音は阿澄さんと一緒に西条さんのイベントへ。
こうして別々に行動することは分かっていたのに、やっぱり付き合い始めた次の日だからこそ寂しい……はぁ、女々しいな俺って。
「なあ二人とも」
「おう……」
「大丈夫か……?」
俺が異様なほどにボーッとしているのは、単に璃音のことがあるから。
そうだな……いつ説明しようか迷っていたけど、ずっと親しかった二人にはもう話してしまうか。
「俺……璃音と付き合うことになった」
そう伝えた瞬間、俺たちの間に沈黙が訪れた。
ピタッと動きを止めて目を見開く二人……かなり驚いているみたいだけどそれも無理ないか。
この後に続く言葉は何がいいかな……そう考えていると、晃弘と武はほぼ同じ動きでガシッと肩に腕を回してきた。
「それならボーッとするのも納得だな」
「おめでとう渚」
「お、おう……あっさりしてんな?」
二人のことだから目を血走らせて追及してくると思ったのに、二人とも本当に俺を祝福してくれて……あぁ、そうだった。
そう言えば二人はこうだったな……いやはや、これに関しては俺が分かっていなかっただけかな。
「騎士様と姫様のことだからなぁ。当然だろ?」
「そうそう。中学の頃から知ってるし……大変なのも知ってるからさ」
「……ありがとう二人とも」
ただ……段々と肩を組む力が強くなってる気がするけど、これは俺の気のせいってことで良いんだよね?
それから歩みを再開させたわけだけど、どんな風に告白したりされたのかとか、どんな風に過ごしたのかを色々聞かれてしまい、二人の圧に押されるように軽く話した。
もちろん本当に軽くなので、璃音が恥ずかしがるようなことは何も伝えていない。
「けど……ようやくって感じじゃね?」
「中学の頃、お前らに出会ってなんだこの幼馴染たちはって……思ったのも束の間だったもんな。本当に良かったぜ」
「あはは……」
どうやら俺が思っていた以上に、二人をヤキモキさせていたらしい。
俺や璃音のことを話す二人はふざけた部分はあっても、どちらかと言えば真剣な部分の方が多いせいでつい俺も真剣に聞き返してしまう。
そのせいなのかおかげなのか、知らなかったことを今になって教えてもらいビックリした話題もある。
「ほら、遠坂が物凄い美人だってのはいわずもがなだろ? だからこそ中一の時は同級生と先輩に評判あったし、それ以降は後輩も出来て更に人気があって……けど入院とかあったからさ」
「お姫様が入院しない世界が一番いいのはそうなんだけど、もしずっと健康だったら色々と面倒なことがあったかもしれん。俺と晃弘で届かないようにしてたけど、先輩で渚を呼び出そうとしてた奴とか居やがったし」
「そうだったのか……おいおい、マジで初耳だぞ」
璃音があまりにも人気で狙われているのはもちろん知っていた。
彼女はそれを嫌がっていたし俺も出来るだけ傍に居ることで、無理やり連れ出されたりすることを防いでいたからだけど、俺に対する呼び出しを二人が庇ってくれていたのは初耳だ。
もちろん意外とかではなくどこどこの先輩が俺を、なんて話は聞いていたがその程度だった……そうか二人が。
「あまりにも美人で可愛いってのはそれだけ話題になるけど、ワンチャンあるかもしれないってことで告白されるのってさ……それを光栄に思う人は居るかもだけど、遠坂の場合は確実に嫌がるって分かってたもんな」
そうだなと頷いたところ、晃弘が軽く舌打ちをしながら続けた。
「……渚も分かってただろ? あいつら、遠坂が入院してから見る目を変えやがって……それで退院してもう病気の心配はないって分かったら前みたいになろうとして……先輩は居なかったけど同級生とかな」
確かにそうだったなと古い記憶を思い浮かべるように俺は苦笑した。
古い記憶と言ってもまだそんなだが、璃音が長期間入院したことでみんな気付いたことがある……それは命がいつ失われるか分からないこと。
今はもう元気になったけれど、前の璃音は本当にそうだった……だからこそ居なくなる相手に好意を持っても仕方ないからみんな諦めていったんだ。
「……俺はさ」
「うん」
「どうした?」
「……最後まで諦めなかったわ」
そう……俺は璃音が助かると信じて疑っていなかったし、彼女は絶対に病気を克服するんだって諦めていなかった。
もちろん危ない時はあったし、璃音が意識を完全に失ってしまい、もうダメかなって考えてしまった瞬間もあった。
(なんだ……? 頭が痛い)
あの時のことを考えたら酷い頭痛がした。
しかしそれも一瞬だったので、俺は話を続けた。
「璃音が必ず良くなること、前と変わらず笑ってくれる未来をずっと信じ続けた……その、現実味がないことを言うけどさ。璃音が頑張ったのはもちろんだけど、俺やお互いの家族が最後まで諦めなかったから神様が応えてくれたんじゃないかってそう思うんだよ。お医者さんも正に奇跡だって言ってたくらいだから」
「……奇跡、じゃねえだろ」
「必然じゃね? 俺たちも知ってんだぞ、お前がずっと遠坂のことを祈ってたの」
祈るしか出来なかったからな……まあでも、信じていれば報われるということを知った……全てではないけど、俺はそれを知れたんだ。
「晃弘、武――今から謝っておくわ」
「え?」
「何を?」
「俺さ、璃音のことめっちゃ好きだ。もう結婚もしたい! あいつとずっと一緒に居たい! だから惚気まくるんでその辺よろしくぅ!」
そう言うと、二人とも俺をウザそうな目で見たが最後には笑って背中を叩いてくるのだった。
なあ璃音、俺は転生したことを考えたら君より俺は年上だ。
それこそ足したら倍の年齢くらいはあるかもしれん……まあ、体に引っ張られて精神が年相応なのは今まで通りだけどさ――そんな俺も、璃音っていう一人の女の子に惹かれている……あの子、高校生なのに魅力が溢れすぎている。
(俺も……魅力があるって言われるような男になりてえなぁ。見た目とかがイケメンになれるわけじゃないけど、雰囲気とかそういうのだけでも璃音が感じてくれるならそれで)
雰囲気イケメン……そうだなこれを目指そう!
璃音ならきっと今の俺が一番とか言ってくれそうな気もするが、その優しさに時には甘えても努力を怠らないようにすれば、自ずとかっこいい自分になれる気がするぜ。
「ふう~!」
「ははっ、めっちゃテンション上がってんじゃん」
「つうか結婚とか早すぎんだろ。彼女居ねえ俺たちへの当てつけか!?」
「痛い痛い! そんな気はちょっとしかないから叩くな!」
「あるんじゃねえか!」
通行人の人、騒がしくてごめんなさい!
そんな風に俺たちは賑やかに歩き続け、二人も見に行きたいと言った西条さんのイベント近くまでやってくるのだった。
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