一途
人には色々な好みが存在する。
その中で、一人の少年は幼馴染という存在に憧れを抱いており、もし自分に漫画やアニメに登場するような可愛くて、美人の幼馴染が居たら……なんてことをよく考えていた。
けれども現実はそこまで甘くはなく、そもそも幼馴染の異性というものが居ることすら稀と言えるだろうか。
「……幼馴染って憧れるぜ」
自分のことを全肯定……というわけではないが、褒めてくれたり叱ってくれる幼馴染は貴重であり、だからこそ居たら良いなと考える。
「つっても……俺みたいに憧れるだけの男じゃ、可愛い幼馴染が居ても恋愛関係はまだしも……お互いに頼れるような関係を作るのは無理じゃねえかなぁ」
絶対にそうだなと思い、彼はガハハと笑う。
だが意外と人生は何が起こるか分からないというもので、これから先の未来……いや、これを彼の未来と言っていいのか分からないが、彼は間違いなく心から大切だと願う幼馴染と出会うことになる。
それが彼の……幼馴染という存在に憧れた故の運命だった。
▼▽
「……全く、いきなりすぎではないですか? それは愛の告白というもので間違いはないのですね?」
「お、おう……」
愛の告白……はい、間違いないです。
今までのことを省みても、俺は璃音のことが間違いなく大好きだったけれど、それが恋愛感情だとは……あ~あれかな? 璃音がずっと傍に居たからこそ、これがそういう感情だと気付かなかったとか? それはそれで漫画の主人公みたいじゃないか。
なんて考えは一旦置いておくとして、俺の胸に飛び込んだ璃音は顔を上げて俺を見つめている……あれ?
(璃音って……こんなに可愛かったっけ?)
彼女は今、ただただ俺を見上げているだけだ。
その綺麗な瞳には俺しか映っておらず、そんな彼女の瞳に居座る俺はあまりにも間抜けというか、とてもじゃないがこんな美少女に告白しても相手にされないくらい冴えない顔をしている……って、自分の顔を卑下するんじゃないっての!
「どうしましたか?」
「いや……」
璃音がとにかく可愛くてボーッとしただけ、この状況でそう言えるわけもなく黙り込む。
というか俺は君に告白をしたんだぞ……?
自分でも良くもまあそんな大それた行為というか、ずっと傍に居た幼馴染に告白出来たなって思うけれど、だからこそ俺の言葉に対する答えを聞きたい……怖いけれど聞きたいんだ。
「……意外と早かったですね。正直、もっともっと時間をかけてでもナギ君の心に私を刻み付けるつもりだったんです。そうすればあなたは私を好きになって、そして永遠に手を取って離さなくなるだろうことが分かっていたから」
「ゾッとするようなことを……でも、そう言うってことは――」
俺の中に期待が膨れ上がる。
そんな俺の期待を裏付けるかのように、璃音はこう言葉を続けた。
「私もあなたのことが大好きですよ。そんなの、当たり前じゃないですかって言いたくなるほど……それだけナギ君が好きです」
「あ……」
「おや、何故ポカンとした顔をするんですか? 私があなたを好きなのが意外……というわけではなさそうですね?」
「あ~……えっとだな……その、告白っていう大きなことを成し遂げて璃音に返事をもらえたわけだけど……気持ちを伝えてしまえばあまりにも呆気ないんだなって」
「……ふふっ、そうですね。ですがこんなものではないですか? 夕焼けの中、眺めの良い場所での告白……これ以上ないほどのロマンチックな状況でしょうし」
……何というか、璃音は変わらないなぁ。
緊張でいっぱいいっぱいだったはずなのに、こうして璃音と話していると心は落ち着いていく。
けど……けどそっか!
「璃音は……璃音は俺のことが好きってことなんだよな!?」
「そうですよ。逆に言えば驚くこともないのでは? あなたが私にしてきたことを思い浮かべてくださいよ。あなたの優しさや思い遣りを私は一心に受けたんです――惚れないわけがないじゃないですか」
「っ……改めて言われると恥ずかしいな」
惚れないわけがない……か。
まさかそんな言葉をこうして直接璃音に言われるなんて……そんな世界が来るとは思わなかったけれど、逆の立場で考えたら確かに惚れないわけがない……のかな?
「……って璃音?」
「……え?」
今、間違いなく俺たちの気持ちは通じ合ったと言って良いだろう。
そのことに安心するのも束の間のこと、璃音が涙を流していることに今更ながら気付く……もしかして泣くほど嬉しいってそう思ってくれたのだろうか?
そう思った俺だけど、璃音が教えてくれた彼女の気持ちは……もっと尊いものだった。
「私……嬉しいんですよ本当に。決して叶わなかったはずの願いが……あなたと気持ちが通じた未来を得られたことが嬉しいんです」
「……………」
「生きていられる……生きてあなたと共に居られる……生きてあなたと特別な関係になれた……それが嬉しくてたまらないんですよ」
嬉しくてたまらない、そう言って彼女は目元に手を当てた。
涙を拭いながらも笑顔を絶やさない璃音を見ていると、俺自身彼女が愛おしくてたまらなくなる。
彼女の肩に手を置き、そのまま抱き寄せる……この子は本当に小さな体だなと、何度思ったか分からないことを考えた。
「……でも――」
しかし、璃音はまだ言葉を続けようとした。
彼女が発した言葉は短い……でも、俺はその言葉を彼女に続けさせる気はなかった。
それが仮に何かの核心を突く言葉だったとしても興味がないと言わんばかりに、俺は反射的に遮っていたんだ。
「璃音、俺は君が好きだ。そして君も俺が?」
「……好き」
「ありがとう。じゃあそれで良くないか? こういう経験がないもんで、どう纏めたら良いのか分からん。でもお互いが好きならそれ以外の何かは今必要じゃないだろ」
「……ふふっ、そうですね」
ジッと見つめ合う俺たち……この場合、次の一手はどうすれば良い?
そう思っていた俺に璃音がこう提案する。
「キス、しませんか?」
「……良いの?」
「良いん……じゃないです?」
「それじゃあ……する?」
「します……?」
「……しよう」
「……したいです」
なんだこのやり取り……なんてお互いに吹き出した後、そっと顔を近付けてキスをした。
柔らかない唇だなと……思ったのも束の間、急激に頭を熱くなってきたのは仕方のないこと――だがこのキスもまた告白に続く新たな関係を構築したことの証明だ。
(俺……彼女出来た……出来たぞおおおおおおおおっ!!)
これくらい喜んでも良いよな……!?
たぶん今の俺、今までにないほど興奮しているし喜んでいると思う。
それだけ嬉しかった……そしてこれからどうしようかと、どうなるんだろうともキスをしながら考えていた。
なあ璃音、俺はただ……君のことをずっと大切に想っていた。
自分のことを犠牲にしてでも君のことは助けたいって、そう思ったのも確かだし今もそれは変わらない。
でも、もう自分を犠牲にだなんて思えないな――だって俺が犠牲になったら璃音を一人にしてしまう……せっかくこうして恋人になれたのだから一緒に居ないとダメだろってやつだ。
なあ璃音、浮気とか心配しなくて良いぜ!
俺は絶対一途だからさ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます