それもまた運命の悪戯
璃音とのお出掛け……もはやデートみたいなものだった。
お茶目な自分を演出するわけじゃなかったけれど、璃音にデートみたいだなって言うと彼女はそうですねと笑った。
(……前に璃音も言ったことあるけどさぁ)
俺が言ってこんな風に微笑ましく見られるのは……納得が行かないと言えば行かないが、まあ変に揶揄われるよりはマシなのか。
「ねえナギ君?」
「なんだ?」
「直接、こうして問いかけるのは初めてな気もしますね――私、昔に比べて随分と成長したでしょう?」
俺を見上げる璃音は相変わらず笑顔だが、その言葉に合わせて抱きしめる腕の力を強くしてくる。
ということはつまり、もっと彼女の体が押し付けられるのと同時に、俺の腕が彼女の膨らみに沈み込むということ……っ。
(確かにこんな風にして聞いてくるのは初めてだけど……いやいや、そりゃ昔に比べたら成長するに決まってるでしょうが!)
男もそうだが、女も年月とともに成長するのは生物として不変の事実に他ならないのだから。
「……背はあんまりだけどな」
「……もう、ナギ君ったらそうやって誤魔化すんですから。ですが、ドキッとしたのは伝わっていますからねぇ?」
あ、ヤバイ璃音のSスイッチが入ったかもしれない。
ただその後は俺が不安に思ったようなことはなく、璃音は今の状況を心から楽しんでくれるように……それこそ、俺の方が彼女に一緒に居てくれてありがとうと言いたくなるくらいの笑顔だった。
「ちなみに、良い女になったとか言ったら流石にキモイでしょ?」
「どうしてですか? 確かに全く知らない人や、仲良くない人に言われたら気持ち悪いですけれど、あなたは幼馴染ですよ? 心の距離だって近い人なんですし、そんな相手に褒められたら嬉しいでしょう?」
「……そんなもんなんだ」
ナチュラルに心の距離とか言ってくるもんなぁ……今日は璃音に翻弄されっぱなしだ。
「ナギ君だって良い男ですよ」
「……良い男とか良い女ってなると途端にアダルトな香りがする」
「確かに……なんでですかね」
言い方の問題かな……?
さて、そんなことをお互いに言いながらもこの人混みの多さを楽しむように進んでいく。
これだけ人が多いということは遠方から来た人も居るんだけど、全く知り合いに遭遇しないのも珍しい気がする。
「知り合いとか誰も会わないな」
「そうですね。みんな遊び歩いたりしているとは思いますけど、中学時代の知り合いも……あら」
「え?」
おっと、話をすればなんとやらだ。
俺たちの視線に先に歩いていた男女それぞれ三人ずつ……その六人は中学時代の同級生だった。
顔と名前は知っているがそこまで話はしない関係……これも特に学生であれば珍しくもなんともないものだろうか。
「どうする?」
「私は特に仲が良いわけでもないので、ナギ君に任せますよ」
「そうか。なら別に声は掛けなくてもいいか……俺もそこまで話したことがあるわけでもないし」
ということで、彼らに接触はしない方向にした。
とは言っても既にあちらの視線に俺たちは捉えられており、俺と璃音を見た彼らは揃いも揃って驚いたような顔をする。
更に言えば男子一人がとてつもないショックを受けたように目を見開いていたので、その理由は何となく分かった……璃音だろ絶対に。
(……そういや、一年の時璃音に告白した奴じゃ……)
いや、普通に覚えていた。
もちろんその告白を璃音は断り、あいつとしてもその後は璃音が入院したりして会うこともなく……結局退院した後もあいつが璃音と話すことは全くなかったんじゃないかな。
そんな出会いはあったが、俺たちは言葉を交わすこともなくすれ違うだけだった。
「仲の良いクラスメイトなら話をするのも良いんですけどね」
「確かにな。もしかしたらこの調子で誰か会うかもしれないなぁ」
「それはそれで楽しみでもありますね」
それでも心から会いたい連中ってなると一握り……まあでも、学校が変わったらそんなもんだろうよ。
それから俺たちは歩いた後、璃音があっと目を留めた場所へ向かう。
俺は特に来たことがない服屋だったが、璃音はここに阿澄さんと何度か来たことがあるらしく、今着ている服もここで買ったのだとか。
「これとか良くないですか? 少しワイルドな感じもしますけど、ナギ君に合っていると思うので」
「……ほう」
そして、俺は璃音の着せ替え人形となっていた。
ファッションセンスなんて俺にはないので、情けないことだがこうして璃音に服を選んでもらえるのは助かる。
(つうか、女の子に服を選んでもらえる時点で最高じゃない?)
それが美少女幼馴染となると、何度考えても最高しか言えない。
そこまで金は持ち歩いてなかったものの、紙袋一つに収まる程度に璃音に服を見繕ってもらい、いつ着るのやらと思いながら会計を済ませた。
こうなってくると璃音の服も何か選びたいと思う……がしかし、やはり俺のセンスは終わってるし、なんなら俺が選ぶより璃音が良いと思った服が最高なので……うん、俺が何かを言ったらダメだこれ。
「ナギ君が何を考えているのか筒抜けなのが面白いですね」
「……だってさぁ」
「まあまあ、服はともかく夏とかになると水着が必要ですよね? やっぱりそういうのはナギ君の真っ直ぐな意見を参考にしますよ」
「水着……そうか」
「ああいうのって表情からも分かりやすく好みが見えますもの。あまりエッチなのは嫌ですけど……ふふっ、ナギ君が望むなら我慢するのも大丈夫ですよ」
「他の人も見ることになるからエッチすぎるのはダメだろ」
「そうですねぇ。であれば、ナギ君がどんな物を選んでくれるか楽しみにしていますね♪」
これは……責任重大すぎるな。
その時が来るのを楽しみに思いながらも、俺の滲み出るエロ心が察知されてしまわないかの心配もあるが……まあその時はその時だな!
少し手荷物は増えてしまったが、それでも気になるほどではない。
俺は残りの時間を璃音と楽しむように、連休特有の騒がしさへと再び飛び込んで行った。
▼▽
この日、璃音と過ごすだけで終わると思っていた。
たとえ人でごった返すいつもと違った日常とはいえ、傍に璃音が居るのだから退屈なんて無く楽しいだけで終わると……そう思っていた。
「あははっ、ありがとね六道君♪」
「……………」
傍に居るのは璃音ではなく、西条さんだ。
別に璃音を放って西条さんの傍に居るのではなく、こうしているのにはもちろん事情がある。
彼女は……笑顔で笑っている。
楽しそうに……でも俺は思うんだ――なんで、笑っていられるんだろうって。
「西条さん」
「なに?」
「……君の価値観は理解してる。こういう状況もある意味で、君は自分の王子様を見つけるためとか思ってるんだろうな」
「そうだね。でもまさか、六道君が助けてくれるなんて――」
「あのさ、なんで笑えるの?」
「……え?」
「俺はもう、君とは友達になったつもりだよ。璃音と仲良くしてくれているのもあるけど、時折疲れはするけどやり取りは楽しいから――その上で言わせてくれ……君の価値観を理解はしてるけど、一歩間違ったらどうなるか分からないってのに笑うんじゃねえよ。君は自分の価値観はこうだから、どれだけ仲の良い友達を心配させる羽目になってもそれを説明すれば良いとか思ってんのか?」
「……あの……六道君?」
何故こうなったのか、それは少し時間を遡る必要がある。
でも俺は少しだけ怒っているというか、たとえ面倒くさい奴だと思われても良いやってなるくらいに、今は西条さんの万人を虜にする笑顔が鬱陶しかった。
このやり取り……何故かデジャブがあるなと感じながら、俺は西条さんとのことを思い返すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます