変化の前
「今日はとても疲れました」
俺はそう、満点の星空に向かって呟く。
既に今日はやることがなくなり、璃音を待つだけ……後は寝るだけなのに璃音を待つというのもそれはそれでいやらしい限りだが、あの風呂騒動は本当に凄かった。
『少し濡れてしまいましたね? どうですか、一緒に入ります?』
なんてことを言われてしまい、俺はすぐに飛び出た。
基本的に璃音に揶揄われてもある程度やり返す力を身に着けているとはいえ、璃音の状態がとにかくマズかった。
ただでさえタオルがはだけていたのに、まるで見計らったかのようにひらりと落ちたのだ――そうなると完全に全てが露わになってしまっている状態だというのに、璃音がそう言ってきたから。
「っ……くっそ顔があちぃ!!」
幼馴染とのお風呂ラッキースケベ……これもまた、漫画とかを読んでて憧れだったシチュエーションの一つと言える。
でも……でも実際に経験するととてつもない恥ずかしさと、大切な幼馴染に欲情しそうになったことがあまりにも情けないというか……ほんとに言葉に出来ないモヤモヤがある!
「つうか……それなら璃音も普通に揶揄う顔で居ろよ……あいつまで何だかんだ照れてたから意識しちまってんじゃん」
ただでさえ璃音の綺麗な体……綺麗なだけでなく男の欲を誘い出すスタイルの良さに加え、照れた時の破壊力抜群の可愛らしさと一体いくつのコンボを叩き出しやがるんだ。
「……ふぅ~」
しばらく空を見上げ続けていると、自然と落ち着きが戻ってきた。
これなら璃音が部屋に来ても大丈夫そうだなと思った直後、家事の諸々を終えて璃音が部屋に入ってくるのだった。
「お待たせしました」
「あぁ……ありがとな色々」
「いえいえ、私がやりたくてやったことですので」
食事の片付けなど、手伝いを申し出たが璃音に却下された。
俺が頼りないとかそういうことではなく、お邪魔している身なのだからやらせてほしいとのことらしい。
もちろんそれでも食い下がったが結局、璃音に押し切られた。
(あ、あかん……また顔が熱くなってきやがった)
今日の彼女が着るパジャマはピンクの可愛らしい物だ。
模様の可愛らしさが普段の璃音と相反するギャップを感じさせるも、それ以上に気になるのが……いや、気になってしまうのが体のライン。
胸の形、腰の形……これも全部、風呂での出来事が原因だろう。
「ナギ君、どうしました?」
「いや、今日は連休一日目から大変だったなって思ったんだ」
「確かに大変でしたね色々と……っ」
「っ……」
璃音が何かを思い出したのか、顔を赤くして俯いたので連鎖するように俺も下を向いた。
ヤバイ……今日は本当にヤバイ。
制御の難しい恥ずかしさを抱えながらベッドの腰を下ろすと、璃音もそっと隣に腰を下ろす。
「今日は……楽しかったです」
「……俺もだよ」
楽しかった……それは本当にそう。
確かに疲れたし色々と気遣う場面もあったけれど、それでも傍に居るのが誰よりも信頼する幼馴染というのは、それだけ心を落ち着かせることの出来る瞬間でもあるのだから。
「今日と後二日……よろしくな璃音」
「はい。よろしくですナギ君」
さて、お互いにまだまだ寝るには早い。
そうなると必然的に何かをして時間を潰すことになるのだが、璃音と二人になるとどんな内容でさえ話が楽しくなるらしい。
「それで真名と合流して西条さんのイベントに向かいます。昼過ぎには終わるとのことで、そこからは三人で過ごす予定ですね」
「なるほどなぁ……西条さんのイベントかぁ」
ゴールデンウィークの一日はお互いにお互いの友人と遊ぶ日を俺たちは設けている。
璃音は阿澄さんと西条さんと過ごす予定だが、午前中は西条さんのグラビアイベントを見学するとのこと――事前にチケットを渡されているようでちょっと羨ましい。
「和田君が聞いたら泣いて羨ましがりそうだ」
「ふ~ん? 心なしかナギ君も残念そうに見えましたけど?」
「いやいやそんなそんな」
「……………」
いやだって、今をときめくグラドルのイベントだろ?
以前の苦い記憶があるとはいえ、普段では絶対に見れないからこそ近くで見たいという欲望はあるに決まってる。
「以前みたいなことはないと思うけど、気を付けてくれよ?」
「大丈夫です。真名も居ますし、何より怖いお兄さんたちが私たちを守ってくれるそうですから」
「へぇ……ってそういや熱狂的なファンなんだっけ」
なるほど、それなら安心しても良さそうだ。
それからも俺たちは互いに眠くなるまで喋り続け……そして寝ようかと言った時にはもう、璃音はベッドに横になって俺を待っている。
彼女の隣に入るように横になると、璃音は熱い吐息を零して身を寄せてきた。
「……やっぱり落ち着きますね」
「……………」
「あ、ナギ君凄くドキドキしてますね」
……もう今日の俺は本当にダメだ。
璃音のどんな仕草でさえドキドキしてしまい、真正面に居る彼女の顔を上手く見ることが出来ない。
しかし、それでも段々と眠くなっていった。
「ナギ君……私の大事な……大事な――」
当たり前のように、璃音の声に包まれて俺は眠りに就く。
だが心のどこかで俺はこんな予感があった――この期間、俺と璃音に大きな変化があるのではないかと……何故かは分からないが、それを感じずには居られなかった。
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