恋愛対象

「これ、懐かしいですね」

「そうだなぁ」

「あ、見てください。私ったらこんなに嫌そうな顔をして」

「今も時々見るけどな」

「こんな性格悪そうな顔はしてないでしょう?」


 自分で自分をそう言うんだ……。

 昼食を済ませた後、璃音と共に俺が見ていたのは過去から今までに続くアルバムだ。

 母さんと父さんが大事に残しているアルバムには、俺だけでなく璃音のこともバッチリと記録されている。


「こうして見るとナギ君は何も変わりませんね」

「璃音もだろう」


 このアルバムの写真は小学校に入学する前くらいの物だ。

 俺も璃音もお互いに成長したのはもちろんだけど、だからと言って顔の面影なんかが消えることはなく……むしろこのまま大きくなったようなものだ。


(……本当に今と違って無表情というか笑ってないな)


 もちろん、この時の璃音は普通に笑ってはいたけど……今みたいに表情豊かかと言えばそうでもない。

 仲良くはなれた……なれたけど今ほどじゃないもんな。


「懐かしいですね本当に……あ、これは覚えがありますよ」

「……………」


 楽しそうに写真を見ていく璃音。

 この頃とは比べ物にならないほどに綺麗な笑顔を浮かべており、こうして近くで見れるのも幼馴染としての特権なんだなと嬉しくなる。


(なあかつての俺……俺は実現したぜ。幼馴染との日々を!)


 もうさ、俺は自分自身を褒めてやって良いと思ってる。

 確かに璃音という幼馴染が出来たわけで……しかも、そんな璃音は体が弱いという部分を差し引いてもあまりにハイスペックな女の子だ。

 おまけに美人だしスタイルは良いし、漫画やアニメの世界からそのまま出てきたかのような美少女なんだから。


「……なあ璃音」

「なんですか?」

「この時の俺さ……璃音を放っておけなかったのはもちろんだけど、仲良くなれる確信はあったんだおそらく」


 おそらく……いや、確実にあったはずだ。

 仮に幼馴染でなかったとしても、こんな美少女逃してなるものかと躍起になった可能性も無きにしも非ずだが、行動してきた結果が今に繋がっている。


「その上で聞いても良いか? この時、俺がしつこく璃音に声を掛け続けたこと……今は嬉しいって思えるか?」


 俺の問いかけに、璃音は強く頷いた。


「もちろんではないですか。だって私は今、こうして楽しくて幸せな時間を過ごせているんですよ? むしろ、この時の自分にもっと愛想を良くしてナギ君を困らせないようにって言いたい気分ですよ」

「あはは、そんなにか」

「あ~でも、もっと困らせてやってくださいとも言いたいですね」

「なんでだよ」


 一応前世の記憶があったとはいえ、結構大変だったんだぞ?

 だからこれ以上困らせないでくれと言わんばかりに視線を向けると、クスクスと笑いながら璃音はこう言ったんだ。


「この頃、ナギ君は本当に人気者でしたから……もっと私のことで困らせてしまえば、あなたはもっともっと私を相手してくれたと思うので」

「っ……」


 璃音の言葉が重たい銃弾のように衝撃を齎す。

 可愛いらしい笑顔とは裏腹に、俺を揶揄うという意志は感じるので照れてはダメなんだ……ダメなのに俺って人間は単純だから、こんな風に真っ直ぐ言われてしまえば分かりやすく反応に出てしまう。


「ほら、そうやってすぐ顔を赤くしてしまうと意地悪したくなるんですよねぇ……さてと、次はどんなネタで揶揄いましょうかねぇ」

「……ふんっ」

「あ! だから頭わしゃわしゃはほんとにやめてください~!」


 やっぱりさ、俺もやられるだけじゃダメだ。

 やられたらやり返す……倍返しとまでは行かずとも、璃音を調子に乗らせたらもっと揶揄われちまうからな。


「まあでも、最近は揶揄われるくらいで全然悪くないさ。この頃ってシンプルに近付かないでとか、話しかけないでとか言ってくれたもんな?」

「うっ……」

「視界に入らないでくださいも言ったっけ?」

「もうやめてください! あの頃の私じゃないんですから!」


 ふっ、俺を揶揄うということはやり返されることを覚悟するんだな!

 璃音にとっても鮮明に思い出せるらしく、いつになくしおらしい様子でごめんなさいと頭を下げられた。


「俺が言い出したんだけど謝る必要はないよ。このクソガキって少し思ったことはあったけど、だからって気に掛けるのを止めようとは思わなかったから今があるんだし」

「……そうですよね。もしも見捨てられていたらと思うと、どうなっていたか全く想像出来ませんよ」


 俺だって想像出来ないよ。

 けど本当にそんなことがあって俺たちの時間は始まり育まれていった。


(璃音は体が小さかったから、良く俺の膝の上に座ったりもしてたか)


 憎まれ口を叩きながら膝の上を占領してきたりしたこともあったし、ちょっと余所見をして反応しなかったら泣きそうになったりと……それが今はこれなんだから本当に感慨深い。


「……朝から二人でのんびりだと、時間の流れが遅いですね」

「そうだなぁ……でも全然悪くない」

「そうですね。あ、ナギ君――一つ聞いても良いですか?」

「なんだ?」


 この時、俺はこれでもかと気を抜いていた。


「ナギ君は私のこと、女として見れていますか?」

「……え?」

「私のこと、恋愛対象として見れます?」


 そんなことを突然に言ってきたのだから。

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