璃音はお口がつよつよ
俺は特に部活動に所属はしていないので、放課後になると基本的にはすぐに帰ることがの方が多い。
仲の良い友達と遊ぶこともまあまああると言えばあるのだが、少しでも時間が出来たら退屈してるであろう璃音の元に向かうことが習慣になっていた。
「よし、それじゃあ行くか」
終礼が終わってすぐ、俺は荷物を纏めて教室を出ようとした時だ。
「おい、待てよ
「……なんだよ」
六道……そう名字を呼ばれて振り向いた。
視線の先に居たのはクラスの中心的人物……ではないが、見た目が派手なヤンキーっぽいやつなので目立ちはする男子だ。
ちなみに……俺はこいつ――伊藤とすこぶる仲が悪い。
「今日も病院かよ。病弱な幼馴染のためにご苦労なこった」
「うるせえよ。お前には関係ないだろうが」
俺はそう言って背中を向けた。
クラスメイトに対して少々態度が悪いよなって自分でも思うけど、こいつは二年の時に居なくなった先輩ほどではないが、しつこく璃音に言い寄って思いっきり拒絶された男子だ。
『しつこい人は嫌いです――金輪際声を掛けてこないでください』
元々伊藤が騒がしい人間ということであまり好かれていないのもあったけど、みんなの目が集まる中でそうハッキリと言われていたのは中々爽快だった。
璃音は男女問わずクラスメイトとは話をする性格なので、そんな璃音に嫌われるだけでもこいつには才能がある……まあ、そんなことがあってこいつは璃音を逆恨みするようになったクソ野郎なんだが。
(璃音に対して逆恨みしやがるし、そんな璃音と仲の良い俺も敵と認識して絡んできやがるし……本当に面倒ったらねえぜ)
面倒だし迷惑……けれどそれは璃音のせいではなく、ましてや絡まれる度に璃音のせいでこうなったとも思わない。
璃音の体が悪いことを知っていてなおこいつは態度を変えなかったし、そんなこいつだからこそ俺は璃音を守るために傍に居た……それでこいつに嫌われたのは今にして思えば名誉みたいなもんだな。
「待てっつってんだろうが!」
振り向かずに背中を向けたままの俺の肩を伊藤が掴んだ。
さっきも言ったがこいつは璃音を逆恨みし俺を敵視している……その敵視の理由は俺が璃音を守り続けたことと合わせ、単純にこいつが好きになった璃音と俺の仲が良かったのも理由の一つなんだろう。
(……結局は嫉妬なんだよな)
可愛い女の子との仲について嫉妬されるのは男として名誉なことかもしれん。
けれど相手にしてもらえなかったからと逆恨みするような奴は嫌いだし……というか璃音に対してそういう気持ちを向ける奴は総じて好きにはなれない。
「ちょっと、アンタ止めなさいよ」
「そうよ。璃音に相手してもらえなかったからってみっともない」
ちなみに璃音の友達はかなり多い。
底知れない怖さを秘めるとは言ってもやっぱり彼女は中学生であり、頭も良くて見た目も優れていればそれだけで人気者の要素が揃っているのもあるが何より、璃音は人を惹き付けるカリスマ性がある。
それもあって、璃音を慕う彼女たちは幼馴染である俺のこともこうして気に掛けてくれるわけだ。
「……ちっ」
多勢に無勢ともなれば、伊藤も諦めざるを得ないんだろう。
小さく舌打ちをしながらも、俺の肩から手を離した。
「ありがとう」
「ううん」
「いいよ全然」
口を挟んでくれた彼女らにお礼を言うのも忘れない。
璃音は本当に良い友人に恵まれた……彼女たちは時間がある時に見舞いにも来てくれるくらいなので、本当に良い子たちなんだ。
(だからこそ……教室で楽しそうにする璃音を見たいもんなんだよ)
……ってダメだダメだ!
璃音のこととなるとすぐにこうやってマイナスのことを考えてしまう……仕方ないとは分かっていても、もしも彼女たちが電話か何かで悲しそうな顔をしてたとか璃音にチクられたらマズイ――絶対に聞き出そうとしてくるからな。
さて、とっとと病院に急ぐとしよう。
伊藤とのやり取りはこれで終わり……そう思っていたのに。
「お前がどんなに病院に通ったって治んねえだろうが。あいつは一生――」
「……あ?」
▽▼
「ナギ君」
「なんだ?」
「何かありましたよね?」
「……………」
がっでえええええむ!!
やっぱりだよ……やっぱり璃音は俺のことに気付くんだよ!
『おい、その後になんて言おうとした?』
『ま、まあ待てよ冗談だろ。それくらい――』
『なんて言おうとしたか言えっつってんだろうが!!』
学校での伊藤とのやり取り……最終的にはこんな言い合いに発展した。
中学生だからこそ咄嗟に酷い言葉が出てしまうことはあるし、その後に伊藤もマズいことを言ってしまったと焦った顔をしていたが、流石に冗談であってもあれを許すことは出来なかった……まあでも、俺も頭に血が昇ったことは反省してすぐに離れたけど。
「……ナギ君」
「んだよ」
「こっち、来てください」
そう言って璃音はポンポンとベッドを叩く……傍に来いって?
言われるがまま、招かれるがままに純白のベッドへと腰を下ろす……すぐ傍には璃音の顔があり、彼女はジッと俺を見つめている。
「どうした? もしかして惚れた?」
「馬鹿を言うんじゃないですよ」
ごめんなさい。
でも……いくら今の年齢に精神がある程度引っ張られているとはいえ、流石に今の一言は余計すぎた。
ただ……これくらいの冗談も幼馴染だからこそ言えるというか、それくらいの関係性が璃音と築けているというのは本当に嬉しいんだ。
「それで? 何かする気か?」
「はい」
頷いた璃音は一切迷うことなく、その両手を俺に伸ばした。
何をするんだと驚く隙さえ与えないかのように、グッと頬を包まれて抱き寄せられてしまった。
そのまま俺が誘い込まれた場所は璃音の胸元……病衣の上から頬に感じるふんわりとした感触、それは璃音の大きく実った胸だ。
「ちょっ!?」
「ジッとしてください」
「いやいやなんでこんな――」
「嫌いじゃないでしょう?」
そ、それは……っ。
これでもかと図星を指摘されてしまったことで、俺は誤魔化しの利かないくらいに動揺した。
この状態から璃音の表情は窺えないがクスクスと笑っていて機嫌が良さそう?
どちらにせよくっそ恥ずかしいんだが……ええい、離れないと――。
「ダメですよ」
咄嗟に、けれども決して璃音に何もないように離れようとしたのだが……まるでそれを見越したかのようにグッと力が強まり脱出は叶わなかった。
この状況……璃音のことだし色々と女性の象徴が当たっていることとか、俺の様子もあって絶対に気付いているはずだ――普段の彼女なら絶対にこういうことをしないのにどうして……?
「……何があったのかは敢えて聞かないでおきましょう。どうせナギ君のことですから自分から言わないでしょうし」
「……俺は君の勘の鋭さにいつも脱帽するよ」
「ふふっ、これもまた幼馴染としての特権というやつでしょうか」
なんだ……なんで今日の璃音はこんなに優しいんだ?
これこそ俺の望んだ優しい幼馴染の姿……そのはずなのに、璃音がこんなことをしてくるなんて何かがあるとしか思えない。
(……くそっ、なんでこんなに不安になるんだよ)
あまり……優しくしてくれないでとも思う。
いつものように憎まれ口を叩いてほしい、いつものように俺のことを玩具……というか、面白い物を見るかのように見てほしい。
そうしたらこの不安を感じないで居られるから。
「全く、私が居ないとナギ君はダメですねぇ。そんなことでは私が居なくなった後、心配で仕方ないですよ」
「……何言ってんだよ。居なくなるってどっかに引っ越しでもすんのかよ」
「……すみません。何でもないです」
頼むからそういう質の悪い冗談は止めてくれな?
少しばかり不安を煽るような言い方をした璃音だったけど、その後はそれに似た言葉を口にすることはなくいつも通りだった。
「ナギ君、その悲しそうな顔はやめましょう。辛気臭くて気が滅入ります」
「……………」
「……なんで嬉しそうなんですか?」
嬉しそう……? マジで?
どうもニヤニヤしていたらしく、うわぁって顔を璃音にされてしまった……俺、別に璃音に強い言葉を言われて嬉しくなるドМじゃない……はずだけどな!?
【あとがき】
※たぶんですけど、今作のヒロインは今まで書いてきたどのヒロインよりもワンチャン愛が重すぎる可能性があります。
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