山登り


「うわぁああ、緑、みどり、翠」

「嬉しい?」

「うん、さあいっぱい遊ぶぞ」

「潤くん楽しそう」


 琴美お姉ちゃんはリュックの線で胸が少し強調されている。

 うわわわ。

 僕の目線、おかしいかな?

 あ、でもよく考えると僕はお姉ちゃんより何センチ下なんだ?

 お姉ちゃんの顔が僕を覗き込む。

 僕と目が合うと不思議そうに、首をかしげられた。

 その次にある笑顔。

 はわぁあ、かわいい。お姉ちゃん可愛すぎると頬を赤らめるのは僕だけではなかった。

 気付くと周りの男の人もにやにやとしている。それはそうだ。お姉ちゃんはいわゆる巨乳というやつでその上にかわいいのだ。


「潤くん、どうしたの?」

「あ、ううん。え〜と……」


 僕は胸に視線を置く。

 僕と琴美お姉ちゃんの身長差は約50センチぐらいある。もし僕がお姉ちゃんと同い年で同じ身長、いやそれより上だったら軽く上着でも掛けるか荷物を代わりに持ってあげてその胸を隠すのにな……。

 って、何を考えてるんだろう。

 そんな恋人みたいなことをしたいと、望む僕がいる。


(うう〜、こんなに背の低い僕がにくらしい)


 でもその胸は危険だと思うんだよ?

 かわいい顔とそれはだよ、お姉ちゃん。


(どうしよう、僕はませてるのかな?)


 この間、お友だちの圭くんに冷やかされた。


「ほら、潤くん」


 お姉ちゃんはある場所で佇む。

 そこは水飛沫上がる見事な滝があった。

 そして周りにはまだ翠生える若葉の紅葉とぶなの木が目立つ。

 綺麗に水面にも、反射している。

 そんな綺麗な水辺だけど僕はついつい、魚を探してしまう。

 「うわあ」と声を上げ、僕は水を覗き込んだ。


「ふふ、綺麗だね。ここでご飯にしようか?」

「うん」


 僕は広げられるお弁当に、心踊らされる。そして横では、三角座りするお姉ちゃんがいる。

 お姉ちゃんの笑顔が、きらきらと夏の木漏れ日に紛れ映えている。


(どうしよう、僕はやっぱり……)


 年が離れてるのは(かなしい)と、僕は悄気た。


「どうしたの、潤くん。お口に合わない?」

「ううん、どれか悩んでいるだけだよ」


 僕は三角に整えられたツナサンドを手に取る。

 青しそが挟んでありちょっぴりと爽やかで、マヨネーズの甘さがいつもよりなんだろう。

 僕には少し、大人な感じのサンドイッチ。


「おいしい〜」

「良かった。低い山とはいえ夏だしね」

「このお肉のサンドもピリッとしてるね。でも好き」

「良かった。辛子マヨネーズを濃いめにね? おにぎりも大丈夫かな」

「うん、塩が効いてておいしい。それに焼いたたらこにチーズ、しゃけもぴりりとしてる。なんだかおしゃれな感じ」

「ふふ、しゃけには七味が少々だよ。潤くんこの間、うどんに七味入れてたからどうかなって」


 山でここまで、というのもあるけど凄く進む食に僕はびっくりしている。たぶん、いつもと違う大人なお弁当に浮かれているのかも。


「おいっひっ、ごふぅ〜」

「潤くん、頬張りすぎるよ。落ち着いて」

「だって、お母さんが作るお弁当よりおいしい!」

「くすくす、褒めすぎだよ。潤くん」


 風が涼しい水の匂いを運んで来る。

 本来、暑い陽射しのはずだけど木々に阻まれきらきらと気持ちよい光が降り注ぐ。

 この景色は、眩しく綺麗だ。子どもなのに生意気な感想かな? でも……。


「潤くん、水がすごく透明だよ」


 手で水を叩き、ぱしゃっと跳ねる飛沫を楽しむお姉さんがいる。


「来てよかったね!」

「うん」


 僕は今日も目に、焼き付ける。

 やっぱり圭くんに揶揄われても僕は……。


「お姉ちゃんがすき」

「潤くん、何か言った?」

「ううん、何も〜」


 滝の音で、僕の告白は消されてしまう。

 ううん、消されること前提で僕は告げたんだ。そうでないと子どもの戯言で済まされてしまう。


 やはり僕はマセガキなのかな?


 帰りは手を繋いで帰る。

 お姉ちゃんの胸は今は気にならない。何故って? 

 帰りは少し肌寒くて、薄いジャケットのおかげでね?

 琴美お姉ちゃんは鼻歌を歌っている。僕も一緒に合わせて歌う。

 僕はお姉ちゃんを越せる日が来るのかなと、ふと考えた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お姉さんと僕 珀武真由 @yosinari

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ