お誕生日会
「おめでとう」
「ありがとう」
大声で盛り上がる、友達の家。
今日は僕の友達、圭くんのお誕生日。学校仲間や塾の子たちがお祝いに駆けつけている。もちろん僕もその内の一人。
「圭くん、はい、プレゼント」
「私からはこれね」
「ありがとう」と、「これ」も「あれ」もと、繰り返されるお礼と贈り物。僕の横で盛大なイベントが繰り返されている。別に僕が貰うわけではないけど今日の主人公は左隣りにいるから、側のやり取りの所為でお胸がいっぱい。
でも横に居座るおかげで目の前にはご馳走が並んでいる。食いっぱぐれる事なく全種類、手をつけられる。
お腹はまだいっぱいではないよ。
「おお、潤、もっと食べないと琴美お姉ちゃんより大きくなれないぞ?!」
「なんでここで琴美お姉っぶ!!」
なんで人は噂を始めると現れるんだろう。この不思議現象が起こされる事により、僕は飲んでいたジュースを盛大に口から噴射!
「あら、潤ちゃん」
「ごっ、ふぅお姉ちゃん!」
驚く僕はジュース塗れ。汁が滴る顎を琴美お姉ちゃんが拭いてくれたのは良いけど、なんでここに?
「あらあら、服裾まで黄色く……あっ。そうだ」
お姉ちゃんはそう言うと、持っているスポーツバックからTシャツを出した。
服を僕の頭に被せるや否やいきなり僕が着るシャツの裾を上げ、みんなの前でばんざーい。
「??!」
手慣れた感じで首裾から黄色く染まる服が引っ張り出され、お姉ちゃんの用意した服に腕がすぽりと、入る。
「!! だぶだぶ……」
だってお姉ちゃんの服は当たり前だけど、僕より大きい。
「やん、潤ちゃんかわいい。私の服はさすがに大きいね」
お姉ちゃんのTシャツに描かれたニコニコ顔は僕の胸で、(念を押すように言うよ?)ぼくの胸で、もう一つの顔となる。
黄色く明るい、笑顔があるよ……とほほ。
「あらあら、かわいい。圭、潤ちゃんと一枚撮りましょう」
「おう、お母さん潤を中心に、プレゼントの山も入れて撮ってよ」
「はい、では」
「に〜」と白い歯をものすごく見せる圭くんにイラッとくるも、圭くんのお母さんは満面に笑む。
「かわいいわぁ。圭の堅苦しい襟シャツの横だとますます、ふふふ」
「わぁ、うふふ。おばさま、私も一緒に入りたいわ」
かしゃっと撮られ、気がつくと間抜けな僕を中心に、団欒写真が出来上がる。主役は圭くんなのにおかしいなぁ〜。
「良い記念写真だ」と、デジタルカメラの画面を確認する
僕の信号機表情を、圭くんは見逃さない。
「ぷぷ、おかしな奴、ほら。チキンサラダにチキンサンド。ニワトリは体を細マッチョにしてくれるらしいぜ?!」
「それほんと?」
僕は圭くんから渡される、チキン尽くしを平らげる。そこにはある陰謀が隠れてるとも知らず……、に。
「げふぅう」
「運動も忘れるなよ、潤」
そう言う圭くんの手には、赤と青のゲームコントローラーがある。そして大画面のテレビにはスポーツゲームのオープニングが流れ始め、僕は「ああぁああ」と情け無い声を出す。
(うわぁ〜、やられた。苦しくて、なのに……)
腕を動かす圭くんに合わせ、画面半分に映り込む絵がある。それは、準備運動をする圭くんのアバター。
「ううん、お腹が」
「おいおい、今日はおれの良いところを見せる日なんだぜ? 付き合えよ、いつものように」
「あっ、圭くん。計ったな?」
「だっておれ、こうでもしないとおまえに勝てない」
「圭くん!」
このスポーツゲーム、いつも二人で遊ぶお気に入りのストレッチゲーム。いつもは僕が勝つ。でも今日は……。
動くたびに揺れるお腹があるようで、胸にも何かがこう上がるというのか、う〜ん苦しい。気がつくと画面には互いの点数があり、見事敗北となり廃人と化す僕がいて……。
横では片腕上げ威張る友がいる。みんなにきゃあきゃあ言われ、やる相手を全て負かしていく意気揚々な主人公。
……の横で、寝転がる僕。
「あら、負けちゃったね。でも私は知ってるよ。潤ちゃんが圭くんよりハイスコアを出すことを」
「お姉ちゃん」
僕はそのひと言で、大満足。そうして人気者を家に残し、解散するみんなの中にも僕がいる。
(しかし! なんてことだ!!)
帰りは、なんとお恥ずかしい。お姉ちゃんの背中に背負われぐったり情け無い僕、なのだ。
「良いお誕生日だったね。勉強するはずが一緒に混じっちゃった、うふふ」
「お姉ちゃん、げふぅ」
「あら、すごいげっぷ。いっぱい食べてたものね」
「ううぅん」
苦しい声を上げ、お姉ちゃんを肩越しから覗く。
圭くんのお姉ちゃんと琴美お姉ちゃんは友だちだと、後から知る。でも僕はそんなことより、今の現状の恥ずかしさを知る。
(お姉ちゃん、ごめんよ。今度は胃を強くしておくよ、とほほ)
普通なら手を繋いで帰るはずが背負われるなんて、男あるまじき出来事。僕は食べ過ぎに反省し弱くうなだれ、ううん、胃も鍛えればいいんだ。
(でも今は〜〜、うぷぷ)
今日は、情けない自分に完敗。
次の日から僕は胃薬をランドセルにも、持ち歩くお出掛けリュックにも忘れず常備。
するようになったんだ。
(えっへん!)
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