お姉さんと僕
珀武真由
おり姫と彦星
本日お日柄も良く、僕はのびのび日向、陽向、ひな……たって気がつくとゆううがたぁあぁああああ。
まずいぞ、こんな所を見られたら。
僕は慌てる。だって寝ている場所は家ではない。あまりの心地よさについごろごろしてしまった情けない僕。
ああ、起きないとっていや起きてはいる。そう移動、移動だよ。だってここは……。
「あらぁ、潤ちゃんいらっしゃい」
「琴美お姉ちゃん、お、お邪魔してます」
そうここはお隣に住むお姉ちゃんの部屋、そして僕はそのお隣さんだ。あれあれ、変なことつぶやいたよ。慌てない、慌てない、と。
暇になるとおばさんの許しを得て書斎部屋の本を読むのが僕の夕方のルーティン。
でも今日はお姉ちゃんの……女性の部屋に転がり込んじゃった。まだ小さいとはいえダメだよ勝手に入っちゃぁああって後の祭りだけどね。
「あら、今日は星の図鑑を広げたのね」
「うっ、うんごめんね片付けるね」
わたわた動く僕は散らかる本を踏み外す。そしてお姉ちゃんの胸へと飛び込んだ。
柔らかい胸に飛び込む僕は嬉しい反面、思うことがある。
お姉ちゃんが転けたら僕が受け止める!
でも実際問題。身長差も年齢も、追い越せない壁の長さに悔しがっているんだ。はぁああ。
「あらあら、ゆっくりでいいんだよ。そうだ、新しい星図図鑑あるの見る?」
「うん」
「じゃ、新しいジュースとケーキ持ってくるね」
うんと頷く僕は胸元にぎゅっと、拳を作る。出て行くお姉ちゃんを見送り、またわたわた動き出す。
そうお姉ちゃんは今高校一年生。そして。
ぱんぱんと手を叩き、本を戻し、鼻息を憤らせ、本棚にある写真立てに目がいく。
そこにいるのは髪が黒く、ボブヘアでセーラー服を着る大きな瞳のお姉ちゃんとちんちくりんの背が低く、ランドセル背負うショートヘアの僕。
笑窪笑いの僕、潤ちゃんこと潤一、眩しい瞳を輝かせほほ笑むお姉ちゃんこと、琴美さん。
(きゃぁああ、琴美だよ。僕の好きな星座の一つ、こと座だよ)
と、はしゃいではいるが、お姉ちゃんのたん生日は5月だ。5月5日の鯉のぼりの日だ。僕のためにちまきを作ってくれたんだようと転げてるとお姉ちゃんの足音がする。
僕は慌てて正座する。
「潤ちゃん、すごい片付けたんだね。えらいえらい」
「子ども扱いしないで、きちんと片せるもん」
「だねぇ? じゃ、本見よっか」
「うん、見る見る」
座敷テーブルにケーキとジュースが置かれる。そして床の上で広げられる本がある。そこで輝く星はすごくきれいで。
その星を反射さすお姉ちゃんの瞳もすごく綺麗で、僕は両方を眺めうっとりとする。
「お姉ちゃん、いつ見てもアンドロメダ銀河はルビーのようでいいね」
「そうね、私はこの青いラピスラズリのようなスバルも好きよ」
夏の星座、冬の星座。
僕は七夕が好きでお姉ちゃんは何が好きか分かんないけど、けどね? これから聞いていこう!
「このスバルはね、牡牛座の中にある星団なんだよう」
「ふうぅうん、そしてその横にはオリオンだね」
「うふふ、えらいね。そうオリオン、冬の大三角の一つ」
「うんでも僕は夏が好き」
「夏もいいね。あっそうか、夏の三角は潤ちゃんの好きな」
「そう、おり姫と彦星〜〜」
(あっ、お姉ちゃんの好きをやめて僕の会話中心になっちゃた。ダメダメ〜)
「うん、お姉ちゃんも好きだよ。お姉ちゃんはその中を渡る川が好き、でもこの川は雨が降るとた〜いへん」
「そうそうなの、たいへんなの。おり姫と彦星。会えなくなるの」
「ね、だから雨はきらい」
「僕もきらい」
お姉ちゃんはそう言うとケーキの上の三角のチョコを僕にくれたんだ。
それからお夕飯までの時間たくさん話した。
そして気がつくと……僕は、お星さまの布団の中で寝ていた。あれ、お星さまって……。
「琴美ちゃんいつもありがとう、これ持って帰って」
「わっ、とうもろこしとスイカ」
「今年もたくさん貰ったから、お裾分け」
「ありがとうございます」
「いいのよ、こちらこそいつも潤一がありがとう。しかも重かったでしょ」
「いえ、私力持ちなので大丈夫です」
会話に聞き耳立てていた僕は全身赤くなる。どうやら本を見てる途中で寝てしまったらしい。そんな僕をお姉ちゃんが運んでくれたらしく……、道理でお布団がお星さまだよ。
僕の布団は星柄の青い布団。
あ〜あ、早くお姉ちゃんを運べるぐらい大きくならないかなと、思う僕はまた目を閉じる。
よく朝、僕は冷蔵庫から牛乳を出し、ごくりごくりと飲み始めたんだ。
早く大きくなりますように。
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