07夏色 ー学園長探しその壱ー
7-1
八月になった。夏休みまではまだ一週間以上ある。七月に転校してきてから約二週間。クラスメイトと、授業には慣れてきた。この暑さには一向に慣れないけど。
「ねえ、学園長の噂知ってる?」
「学園長?」
それは天といつも通り昼休みに休憩していたときだった。ふとした時に、彼女は話しかけてきた。
「この学校、学園長がいるらしいのよ」
「そりゃ、いるだろうよ。学園長ぐらい。学園長だか、学校長だかは、わからないけど」
「それがごく最近のことらしいわ。突然、忽然と現れた学園長の謎。ねえ、気にならない?」
「謎、ねぇ」
天はそういう話がどうにも好きらしかった。なにか噂とか、ゴシップとか、そういう類の話を。
「それなら、秋先生が知ってるんじゃないか? ほら、学校の職員でもあるわけだし」
他の職員を見たことはないが。見かけたことはないが。どうなってるんだろうな、この学校は。
「そうね、聞いてみましょ」
するとちょうど秋先生が通り掛かった。しかし先生は忙しいという。質問なら放課後に受けてあげるから、放課後職員室へいらっしゃい、とのことだった。俺たちは頷いて、それに従った。
午後の授業はプリントを配られて、それを解く事が課題だった。先生は職員室へと再び戻っていき、仕事をしているようだった。俺は適当に課題をやっつけて、それから外を見た。外は今日も夏だった。天気の良い、うだるような暑さと照りつける日差しと蒸し暑さが漂っていた。しかし、学園長だか、学校長だかはわからないが、いずれにしても、たとえこの学校に居たとしたら、こんな暑い日もスーツを着込んで業務をしているのだろうか。俺だったら半袖ワイシャツで業務遂行するな。クールビズだよ、クールビズ。
授業はやがて秋先生がやってきて、プリントを回収していって終わった。各々伸びをしたりして、授業終わりのの開放感に浸っている。そのまま帰りのホームルームが行われ、やがて解散となった。放課後である。
俺は約束通り、そのまま教室から職員室へと先生について行って、話を聞くことにした。天はいなかった。なにやら用事があるらしい。なんの用事があるのやら。
「失礼します」
職員室は今日も誰も居なかった。秋先生以外には、誰も。本当に大丈夫なのだろうか、この学校は。
「先生以外には、誰もいないんですね」
「そうね、ひとりでやっているわ」
「大変じゃないんですか、仕事とか」
「大変じゃない、って言ったら嘘になるけど、でも一人で何とかなっているわよ。クラス一つだし。やることは一つのクラスのことが全てだし。事務作業も大してないし。ほら、あなた達はもう保護者とかいないじゃない。そういう関係の連絡もいらない。塾みたいなものよ」
「そんなものですかね」
「そんなものよ、案外。それで、何が聞きたいの」
「ああ、ええと、学園長というか、学校長っているんですか。この学校に」
「ああ、そのことね。それなら最近来たわよ。あなたも良く知っているじゃない」
俺も良く知ってる? 誰だ、それは。いや、いつだそれは。最近俺以外に転校生でも来たのか。いや、来校か。学校長先生だから。来校。
「それは私から言うまでもないはずよ。この学校の校長先生だもの。特にやること無いからね」
「校長先生もやること無いのか」
「ほら、ここど田舎だから。外との接点とかあまりないのよ」
「無いんですか」
たしかに部活もない高校である。廃校になっていたのを数年前に再起させたばかり。そういえば、委員会とかも特になさそうだしな。生徒会すら無い。各四人が、今は五人だが、その生徒各々が自適に暮らしているだけである。外との繋がりはたしかに、無いのかもしれない。
しかし、既に来校している、来ているという噂は本当らしい。もうこの学校にいるのだ、その校長先生は。
俺は調べ物をしながら教室へと戻っていった。
校長とは、学校には必置であり、学校教育法施行規則に定められている、
教諭の専修免許状または一種免許状を有し 五年以上教育に関する職に従事すること,もしくは 十年以上教育に関する職に従事することが要求される
らしい。良くわからないが、免許があれば五年以上教育の仕事をしていればオーケーで、無ければ十年以上教育の仕事をしていればオーケーということらしい。これがあっているのかは、さて軽く調べただけだから分からないけど、まあ、概ね正解だろう。次。
学園長とは、学園の長である。
分からないな、これでは。
学園とは学校とほぼ同様の意味を持つ名称、別称。複数の学校をまとめて学園と呼ぶこともある。
なるほど、つまり、校長は規則の上に決まっているが、学園長は明確に定まっていない事もあると。まあ、ある程度実績と信頼のある人が、なるべくしてなるんだろうけど。しかし立場としては、同じような立場なんだろうな。校務をつかさどり、所属職員を監督することが仕事。それは変わりない。そんなイメージか。
「どっちにしても大変だな。俺なんかではなれっこないが、なりたくはないな」
おっ、そういえば。
そういえば、いるではないかこの学校に。そんな立場のやつが。偉くて代表のようなやつが。いつも灯台の下にいる、あの彼女が。
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