03夏音 ー杉谷朱音ー

3-1

「次は杉谷朱音ちゃん。この中だと、一番年上ね。たしか二十六歳だったかしら」



 それはとある昼休み。彼女は今日も煙草を吸っている。その様は、様になっていると言うか、どこか彼女らしいとさえ思えるほどであった。



「ああ、あいつか。たしかに先日の飲み会では天と同じくらい話しやすかったな。夢に関しては、あまり語っていなかったけど」


「そうね。自分の事話さない子しかいないから、ここは。だからこそ久くんの存在は貴重なんだよ」


「どうして?」


「さあ、どうしてだろうね」



 会話が切れた。煙草の吸う彼女の動作だけが続く。俺はじれったくなって、なんとか切り出そうとして、そして落ち着くために溜息をついた。



「それじゃあ次は朱音。彼女がここに来た理由。それでいいか」


「ええ、もちろん。目的達成のためには一人ずつ聞いていくしか無いもの」











 ※ ※ ※















 彼女と話を終えたあと、そのあとに昼飯を食べた。食べながら考えた。上沢遥楓は灯台という、いい場所があった。話をするのに適した場所が。しかし、他のメンバーはどうだろう。行動範囲は学校、寮、ダレガキ荘がほとんど。いい場所には普段はいない。どこか空き教室に呼び出してみようか。誰かいる状況だと、本音は話してくれないだろうからな。一対一の

二人きりがやはり好ましい。しかし、そううまくいくだろうか。連絡先は先日交換したが、しかし、出会って日が浅い関係だぞ。そんな人生の根幹のような、肝のようなところに切り込んでいけるものだろうか。そんな事して良いのだろうか。いくら、天からの頼みとはいえ。頼みとは言えども。俺と天もそこまで仲の良い関係ではないというか、いや、仲は良いのだろうが、彼女のおおらかな性格のおかげで話しやすいだけというか、なんかその程度な気がする。



「ふぅ……」



 紙パックの飲み物を飲んで、それをへこませながら、椅子の背もたれに寄りかかって、首を曲げて天井を見た。



「なにしてるの、転校生くん」


「わっ……。なんだ、朱音か」


「なに? 困りごと? 悩み事? 新生活で困ったことあった?」


「いや、別にそういうわけじゃないんだが……」



 俺は上体を起こし、くるっと反対向いて背もたれを抱えるようにして後ろの席にいた彼女に向かって言った。人差し指を立てるようにして言った。



「今日、放課後暇か? なにか用事とかあるか」



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