1-2
「おはようございます。はい、それでは点呼取ります。」
上沢
「はい」
「……はい」
杉谷
「はい」
森本天青さん。
「はい」
矢澤久さん。
「はい」
「はい、みなさんきちんと登校していますね。良かったです。矢澤さんは今日から登校ですね。自己紹介はあとで本人からしてもらって、各々聞いてくださいねー」
随分と適当である。まあ、仰々しく転校生ですと扱われても、それはそれで困るのだけど。
それからしばらくしてホームルームが終わった。何年ぶりのホームルームだったろうか。今は二十五歳だから、中学の時って考えると十年くらいぶりになるのか。中学の時も野球野球で、野球漬けだったからまともに授業を受けていないに等しかった。前回の高校の時は、あのときは席だけ、籍だけ置いていて、あとは野球漬けの日々だった。野球専攻の特別学級、特別校に通っていたのだ。すぐにプロスカウトされて、デビューして、しばらく投げて、それで今に至る。今は投げていないで、イチから普通の高校生始めようとしているのだから、その辺りはお察しである。
それから授業が始まった。授業は教科書を使わない。学年が一から三年までバラけているからだ。プリントと黒板である。現国の授業が初めの、最初の授業であった。これはみんなで、全員で受ける共通の授業だった。文章を音読するのに当てられたり、言葉の意味を聞かれて当てられたり、漢字を書けと当てられたり。意外と積極的な授業だった。
教師は全て担任が務めるそうだ。名前は稲葉秋。秋先生と呼んでほしいらしい。でかい胸が特徴だ。そういえば天もなかなかに大きかった気がする。他のやつはざっと見た感じそこそこ普通というか……なんだ、俺は他人の乳を気にするやつだったのか。不埒なやつだな。戒めよう。
休み時間になった。みんなが集まってきて、各々挨拶を交わす。俺は全員に向けて改めて自己紹介をする。ノートに自分の漢字を書いて。
「矢澤久だ。漢字はこのように書く。歳は二十五歳。新入生だから、転校生だから一年生だ。よろしく」
「森本天青。二十四歳。二年生。よろしく!」
「榊原涼。二十歳。一年生」
「上沢
「杉谷
一年生は榊原だけ。あとは二年生で先輩。だいたい年下だけど、杉谷だけ年上、か。なるほどな。
「じゃあ、みんな成人してるし、今日は歓迎会で飲みに行こうぜー!」
「天ちゃんまたですか。また飲み会……」
遥楓が苦言を呈する。
「えーっ」
「けっきょくー?」
気力なく榊原が続き、杉谷がやれやれと言う。
「何だよ、反対ばかり。転校生はどう?」
「俺は普通に飲めるぞ。人並みに飲める」
「よっしゃ決まりー! 今夜ね。みんな遅刻しないでよ」
「場所は?」
俺は尋ねる。
「ダレガキ荘よ。あそこは駄菓子屋でもあり、コンビニでもあり、スーパーマーケットでもあり、飲食店でもあるの。この辺りの最重要物流交易拠点だから、覚えておくと良いわ」
彼女は誇らしく言った。
「……他にない。田舎だから」
榊原が答えた。
「そうか。覚えておくよ」
「はーい、みなさん席に着いてー。次の授業始めますよー」
言われてそれぞれが散り散りに戻っていく。どこか、なにかを思いながら。想いながら。普通の高校生として、普通の高校として、授業を普通にやって、そうやってこの世界の普通は普通に行われているのだろう。しかし、一方で誰しも様々な事情抱えている。普通ではない普通を抱えている。みんながみんな陰りがある。だからこそ人間らしく、今を生きているんだろうけど。
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