あの青空に伝説を

小鳥遊咲季真【タカナシ・サイマ】

01夏影 ーintroー

1-1

 暑い夏であった。空は遠く、青がどこまでも青くて蒼くて青い。そして果てしなく遠くて、薄くて、きれいで鮮やかな白い雲さえ見当たらない空だった。手を伸ばした程度では届かない。振り返ると、ここから真っ直ぐ見て、かなり遠くの、さらに遠くに見えるところには入道雲が見えた。そしてそこに飛行機雲が走っていた。それはどこまでも追いかけて行きたくなるような、どこまでも伸びていくような、そんな飛行機雲だった。



 夏だった。それはもう、夏であった。



 俺は歩いて学校まで向かっていた。熱くうなだれるような、ムシムシとまとわりつくような暑さを受けながら。



「ここか。ここであってる、な」




 私立青空碧天高等学校。なんて読むのかはわからない。青空高校とでも読んでおこう。




 さっそく教室に、いやまずは職員室か。そこに向かおうとした時、後ろから唸り声が聞こえた。それはバイクの唸り声。振り向くと、それはかなりの大型車だった。それはエンジンをふかすと、ドルドルどるどると言わせて俺の隣に着いた。



「やあ、こんにちは。見ない顔だね。転校生かい?」



 バイクの音で聞こえづらいが、概ね言ってることは認識と差異が無いだろう。



「そうだ」



 俺は答える。



「……なんて!」



 どうやらバイクの音で聞こえないらしい。俺は改めて大きな声で「そうだ」と言った。



「なんやてーー?」



 くそう。まだ聞こえないのか仕方ない奴め。俺は体を捻じるようにして後ろを向き、そして勢いをつけて振り返りながら叫ぶように「そうだーーーー!!」と言った。



 エンジンが切られた。



「なんだって?」




 俺はずっこけた。エンジンを切ると彼女の声も、その綺麗で可愛らしい声もよく聞こえた。俺は「転校生だ」と改めて言った。



「ああ、やっぱり。転校生だったのね。あたしはこの学校通う二年生で森本天青てんせい。木が三本並んでる森に、ブックのホンで森本。天井の天に青色の青で天青。男みたいな名前だけど、よろしく」


「よろしく。矢澤ひさしだ。難しい漢字の矢澤に、久しぶりの久だ」


「たぶん同じクラスだよね、案内しようか」


「そうだな、全校生徒が五人だったか。それならクラスは一つしか無いだろう。別れないと思う」


「待ってて、バイク置いてくる」


「おう」



 ニ年生ということは、彼女は先輩に当たるわけだ。俺は新入生、一年生からだからな。そういうところはきちんとしておかないといけない。そういう社会で生きてきたわけだし。慣れというか、馴れというか。



「あついな……」




 初日。俺にとっての学校初日は暑い日であった。暑くて、熱くて暑くて暑い。そんな日。空はどこまでも青くて、まるで宇宙との境が見えるかのようであった。この青い空の下で、暑い暑い環境で、俺は高校生をやり直す。いや、新しく始める。その方が正しい。



「おまたせー」


「はい、天青さん」


「あれ? 何で敬語? もしかして一年生だから? いいよ、そういうの。気にしないから私。天でいいわよ」


「じゃあ、天。よろしく」


「はいはい、よろしくー」




 こうして、俺の普通の高校生生活が新しく始まるのだった。


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