第4話
「キャー! 片山先輩!!」
練習着姿で出てきた片山に、大きな歓声が上がる。他の部員、監督も慣れたものだが、頭の天辺から突き抜けるような、何度耳にしてもすごい声だ。
「あれ?」
軽くドリブルをしながら、大きく開いた体育館口に目を向けていた。漏らした呟きに、片山と同じ2年生でクラスメイトの高野が声を掛ける。
「どうした?」
「んー、いや、さっきの子がさ…」
「さっきの?」
高野も一緒に同じ方に目を向けるが、見慣れた常連の女子の顔ばかりで、目新しい子は誰もいない。
「いや。何でもないよ」
見た事のない顔だったから、何となく気になっているのだろう。
「速攻行くぞ!」
瞬時に切り替え、高野にパス。流れるような速攻で、あっという間にゴールを決める。片山が動くたびに黄色い悲鳴。日常の光景に戻っていた。
*
学校帰りに、そのまま行っていたアルバイトを終えて帰宅。首を回して疲れを取る。
「お父さん、お母さん、ただいま」
両親の位牌と写真が置かれている、チェストの上の小さな手作りの仏壇に手を合わせた。
そういえば、大家が今日改めて来るとか言っていた。もう来てしまったのか、これから来るのか。どちらにせよ、美緒には気が重いことには違いない。
この部屋を追い出されたら、施設に入る以外は無いのだろう。父方の親戚とは絶縁状態だし、母には姉が一人いるけれど、葬儀やお墓のことでお世話になったばかりで、これ以上迷惑はかけられないし…。
その時、電話が鳴った。
(どうしよう…)
大家さんに決まっている。本当は、電話に出たくない。また怒鳴られるかもしれない怖さがこみ上げる。
「はい。川村です」
緊張しながら上げた受話器の向こうの声は、やはり大家さん。相変わらずの、不機嫌な声だった。何を言われても覚悟の上で、大家の話に耳を傾けるが――。
「……えっ? いえ、でも―――」
大家の言っている言葉が理解出来ない。「だから」と、同じ言葉を繰り返す声に美緒は呆然としていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます