第6話 2階
どこだ。金になりそうなものは一体どこにある。これだけ広い家なのに、まだ持ち出し可能で売れそうなものに出会えていないとはどういうことだ。
俺は腕時計を見た。4分20秒。まだタイムリミットまでは5分以上あるが、少し焦りを感じ始めていた。普通の泥棒ならば、とっくに金目の物にありついて、さっさと外へ出ているのではないか。泥棒が引き出しなどを開け、中から宝石などをつかみ取る様子が頭に浮かぶ。
そうだ。現金や貴金属だ。なぜこんな単純なことに気がつかなかったのだろう。ゴミを漁ってはそれらを売るという習慣が身についていたため、現金や貴金属は、すぐイメージが湧かなかった。さっさと現金や貴金属を探し出せばよかったのだ。
寝室だ。母親か父親の寝室にきっとそれらがある。俺はもう一度LDKに移動すると、北側にある階段へ移動した。
階段は折り返し階段になっており、直接は2階は見えない。踊り場を通じて2階へあがった。
2階廊下に出て左右を見る。東側に移動し、突き当たりに向かい合うようにある2つのドアを順に開ける。北側はトイレ、南側は子供部屋になっていた。どうやら女の子の部屋のようだ。
廊下を西へ移動し、北側にある、ドアが開いたままの部屋の中を見る。こちらも子供部屋になっているが、先ほどの女の子の部屋と違っておもちゃや漫画などが散らかっていた。
廊下の南側に手すりがあり、その先は吹き抜けになっていて、一階のリビングスペースが見えるようになっていた。L字になった廊下を南に折れ、最後のドアを開ける。
見つけた。主寝室だ。
胸を躍らせながら中を見渡す。キングサイズのベッド、ドレッサー、間接照明、ノートパソコンが載ったテーブル、風景が描かれたキャンバスなどがある。俺はドレッサーの前に移動すると、引き出しを開けた。
大声を出しそうになり、思わず口に手をあてる。中にはネックレス、イヤリング、指輪など、まばゆい光を放つ貴金属や宝石が多数入っていた。
やった。ついに見つけた。俺は目を剝きながら、それらを手に取りじっくり見てみた。
これらを全部売ったら一体いくらになるだろう? 数10万……いや数100万か。少なくとも目標貯金額の50万は、いとも簡単にクリアできるだろう。
俺はバックパックから巾着袋を取り出すと、貴金属や宝石を次々に詰め込んだ。
腕時計を見ると7分11秒だった。犯行時間だけを見ればタイムオーバーかもしれないが、そんなことはもうどうでもよかった。すでに目当てのものにはありつけたし、あとは外に出るだけなのだから。
俺はバックパックを背負うと、天を仰いだ。
雨で濡れ、冷たくなったコンクリートの上で震えながら寝た日。3日間、水だけで過ごし死にそうになった日。ゴミを漁っている途中、マンションの管理人に見つかり、ほうきで叩かれた上、警察に通報された日。
やっとこのみじめで辛い生活からおさらばできる。思わず目頭が熱くなり、指でぐっと押さえた。俺は自分が犯罪行為をしたということも忘れ、これから始まるであろう人間らしい生活に感動と興奮を覚えていた。
主寝室のドアを開け、廊下に出る。次の瞬間、驚愕で体が硬直した。
がちゃりという1階の玄関ドアが開く音。続いて聞こえてくる複数の声。
「お父さんってほんとドジね」
「そうよね。出発時間、4時間も間違えるなんて」
「いやー。すまない、すまない」
馬鹿な。一体、どういうことだ。
パニックで思考回路が壊れそうになるも、吹き抜けから見えないように、瞬時に身を屈める。
住人が帰ってきた……。
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