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「だはぁー、マジで疲れたっ!」

その場に倒れ込むハルマ。


その手に握られていた恍惚のギュスターヴはもうない。

半ば放心状態で真っ白な天井を見上げるハルマ。


「牛乳……高かったのにな……」ぽつりと一言。

思い浮かぶのは、とろとろのホワイトソースがたっぷり掛かったチーズハンバーグ。


「……腹減った……」喉の奥から声を出す。


──と、ぬっとカナタが顔を覗かせる。

「まさか、ここまでやる奴だったとはな……正直、驚いたぜ」


カナタの横からしかめっ面のナツモの顔。

「最初っから本気出してりゃあ、んなに、苦労することもなかったんだろうが、バカ野郎」


そのいつものナツモらしい不満げな顔つきをぼんやり眺めて、どこかナツモの頭が柏餅のように思えてくる。


「……まあ、上出来だ」と、ナツモは彼らしいむすりとした表情と言葉で労った。


「いやぁー、ハルマ君! お疲れ様っ! 最後の猛攻撃は凄かったねっ、ほんとビックリしたよ……てか、あれって──」


「──ちょっと、ハルマ君! なにさ、あれ! めっちゃヤバかったじゃん! ねえ、あれって、君の特殊能力的な? ねえねえ、あれって、一体、なんだったわけ!?」


ムササビを押し退け、ハヤブサが興奮した口振りで尋ねる。


「……えっと、あれは、セイズ・アトランスって言って──」


「──てか、あの刀! あれも凄かったじゃん! あれって、君のなんでしょ!? あんな、スーパーウエポン、一体全体、どこでどうやって手に入れたのさ!」


爛々とした瞳でハルマを見下ろすハヤブサの興奮は治らない。


「ちょっとケイ、落ち着きなさいって」と、ハヤブサをたしなめるムササビ。


そのムササビに食ってかかるハヤブサ。

そのやり取りを辟易と眺めるナツモとカナタ。


「──ていうか、コウセイ、お前、腕、大丈夫なのか?」

「あぁっ……なんともねえーよ」


「はい、ウソ」

「チッ」


「なんで、お前はいちいち強がんだよ」

「はぁっ、強がってねぇーよ」


カナタに食い下がるナツモ。

そのやり取りを微笑ましげに眺めるムササビとハヤブサ。


──いつもの光景がそこに並ぶ。


「──あ、こいつ、寝ちまいやがった」

カナタが呆れたようにハルマを眺める。


「任務中に居眠りとか、マジ有り得ねえ。意味分かんなねえよ」

ナツモは眉間に皺を寄せ、ハルマを見下ろす。


「まあ、このまま、そっと寝かしといてやろう、なんだかんだ、良く頑張ってくれたしさ」


ムササビがいつもの薄い笑みを浮かべて、言った。


「まっ、後はクラフト閉じて、しまいだから、俺達、“武装班”の役目はもうねえしな」


カナタは意地悪く、ハルマの頬を引っ張った。

やめなさいよ、とハヤブサがカナタの肩を小さく叩く。


それでもハルマが起きる気配はまるでない。

怖いもの知らずの家猫のようにすやすやと眠ったまま──。

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