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──二人と一体の攻防は続く。

火花散る戦いは最終局面に向けて舵を切り始めた。


──「堕魂」「黄泉月」「魂濤」

これらは、ランダー達が“コア”と呼んでいるものである。


明確な理由は不明であるが並のビヨンドにはなく、のビヨンドだけが持つ魔力の源泉。 


それを破壊、滅しない限り、例え、その身を切り刻まれようとも、蜂の巣にされようとも、灰になろうとも、魔物は絶対に滅びはしない。


謂わば、魔物の急所。魂そのものと言える。


“コア”の場所は魔物一体一体によって千差万別、どこにあるかは実際に対峙してみないことには分からない。


身体の何処かに存在する“コア”は、その身に極度のダメージを受けたとき、暗澹たる黒雲から顔を出す月の如く、ランダーの目に輝いて現れる。


「──だから、オリジンを弱らせないことには、“コア”が身体のどこにあるか、判別するのは難しいんですよ」


カナタに頼まれたヒワハ隊員がハルマに“コア”の説明をしている。


その少し離れた所で、他の隊員が二人を眺め、ヒソヒソと話している。


「“コア”って、説明は難しいんですけど、平く言うと、エネルギータンクみたいなもので、ビヨンドはそのタンクの場所を身体の奥底に隠してるんですけど、身体が損壊するほどのダメージを食らったら、本能的に“コア”の力を使って、回復しようとするんですよ……しようとするっていうか、自動的にというか……まあ、細かいことは今は省きますね」


ヒワハ隊員は他の隊員たちを横目に話しを続ける。


「──で、その特性を利用して、魔導機器を使って“コア”の場所を特定するんです。なので、基本的にランダーの部隊編成には魔導士が一人は同行するんです。……まず、“コア”をどこに内含ないがんしてるのかを特定するために対象を攻撃。その次に、特定した箇所及び、“コア”自体への攻撃っていうのが、対オリジン討伐の常套手段パターンなんですけど……」


ヒワハ隊員は顔を曇らせる。


「でも今回は、それができないので、ちょっと乱暴なやり方にはなるんでけど……を付けて、叩くんです。手当たり次第に攻撃して、ここだっ! ってところをぶっ叩くわけです」


最後は興奮気味に手振りを加えて、ヒワハ隊員の説明は終わった。


「ハルマさん、理解できましたか、大丈夫ですか?」


ヒワハ隊員はストロベリーチョコ味のエナジーバーを齧るハルマをじっと見つめた。


「おっけ、じゃあ、サンザとかハヤブサのパイセンが、その……オリジンってのを倒すのをここで待っとけばええんだな」


「……ハルマさん、いくら命の恩人とは言え、ふざけてると、ぶん殴りますよ」

「なんでだよ!」


(──カナタ君はやってきたけど、ハルマ君の姿はない……やっぱ、荷が重かったか)


ハヤブサはオリジンの攻撃を受け流しつつ、観客席の方をちらりと見た。


「まあ、仕方ないね──」

「ん、なんの話?」

「なんでもないわ」

少しだけ残念そうな、ハヤブサの空返事。


闘技場をよく見渡せる観客席の後方にカナタが立っている。


「──この辺がいいだろ」

地べたにどしりと腰を下ろし、召喚オーダーストックしたのは大型のスナイパーライフル。


カナタは手慣れた手付きで組み立てていく。

「銃」というには、洗練さに欠ける野暮ったいフォルム。


まるで、業務用の掃除機のような見た目──


麝香機関所蔵の“退魔器遺物オープ”。

偉大なる先人が造り上げた対ビヨンド専用武器。


リストナンバー74──

古代銃「ジ・アンサー・オブ・オブライエン」

通称「ロマンサー」


「──組み立て完了。装填準備開始します」

「了解」と、オリジンと対峙する二人は声を揃えて返事した。


縦に平く重厚な銃身を抱えるカナタ。

銃身に繋がる蛇腹のホースは円柱型のタンクに繋がっている。


昔ながらの電源スイッチをパチンッと押す。

キュィーーンッ、と小さな高音を鳴らし、古代銃が目覚める──


タンクにある小蓋を開けると、細く小さな注射針が付いている。

カナタは針に親指を押し付けた。

親指に小さな穴を開け、針は奥に押されて引っ込んだ。


キィィィィィィンッ

耳鳴りに近い音を鳴らして、電源スイッチ横の白い明かりが赤に変わる。


ピー、ピ、ピー……

《補充確認中》

ピ……ピ……ピー……

《銃弾製造開始》

《製造終了まであと“15:00”──》

ピーーッ

《START》


古めかしい液晶画面に映るメッセージ。


今から十五分間、親指を付けたまま、カナタは待ち続けなくてはならない。

如何なる魔物をも討ち滅ぼすことのできる弾丸の完成を──


「──あと、十五分で銃弾の製造完了します」

「……ああ」

「OKッ」

「了解っ」


あと少し、もうあと少しで、悪夢は終わる。


「勝利」という、ありきたりな言葉が誰の頭にも浮かんだ。


──オリジンは嗤う。

──嘲り笑う。


ムササビの予想は正しかった──

オリジンは“コア”を“結界”に変えた。


ランダーを囲い、殺すために。

不死身の身体。破れない結界。


後は、ゆっくり邪魔な敵を殺していけばいい。

だから、万全を期す。


攻防の最中、異様な雰囲気の──死滅の匂いを放つ──狙撃銃を抱える男を見上げる。


「チッ、気付きやがった」


パチンッと指を鳴らすオリジン。

観客席の一部が凶悪な魔物へと姿を変える。


「クソッ」


眉を顰めるカナタへ襲い掛かる魔物──!


目の前に立つ人影。

真っ二つに斬り落とされた魔物。

──ナツモコウセイだ。


「──いいから、その指、絶対離すなよ、使

「おお、悪りいな」

ツンとしたその頼もしい後ろ姿にカナタは言う。


観客席の一部はまた一つ、また一つ、魔物に姿を変える。

二人を取り囲むビヨンドの群れ。


「──あと何分だ?」

「十二分三十七秒──」


「楽勝だな」

鬼包丁の刃が群れる魔獣に振り抜かれる──


「死んでも離すなよ」

「俺が死んだら、誰も、この銃使えんだろうが」


「ランダーなら死んでも撃てよ」

「無茶苦茶だな」

カナタはほくそ笑む。


「──うちの後輩たちは頼もしい限りね」

「ほんとになっ」


二人の攻撃は続く。

オリジンは輪刀に乗った。


輪刀の持ち手とオリジンの足は融合し、地面を滑走する。両手を刃に変えて。


「ギジャァーーー!」

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