40
見つめ合う二人──
──暫しの沈黙。
「…………」
「…………」
ハヤブサは「結界」を見て、一言。
「……ありえるね」
「っだろぉ!」
ムササビは何故か安堵した様子で大袈裟に言ってみせた。
「結界である以上、物理攻撃は効かないし、今の俺たちは魔導が使えないから、結界を破る術を持たない。結界を破らない限り、オリジンを倒すことはできない……あいつにとっては最強の防御策だ」
「ほんと、奇天烈なことしちゃってくれるわね、ビヨンドってのは」
ハヤブサは溜め息を一つ。
「魔導が使えない今の状況では、最悪の展開ね……ほんと、“神龍寺”のバカ共っ、頭にくるわね!」
ハヤブサは吐き捨てた。
「……でも、まさか、あのオリジン、そこまで織り込み済みで“コア”を結界に?」
「いや、そこまで、頭の回るタイプじゃないだろ。今までの戦いで、“コア”を分散させるだけじゃダメだと感じたんだ……きっと生存本能的な直感だろうよ──」
ムササビの糸目が白濁のドロを向く。それは、オリジンの姿に変わりゆく。
「──ジリ貧だな」
ポツリと呟く、ムササビ。
「でも、どうすんのさ、その間に、クラフトは拡大していって、あいつ、どんどん強くなってくわよ?」
「それに、気付いたか、ケイ? あいつ、再生する度に──」
「──硬くなってるね。手、痛いわ」
手首を振るハヤブサ。
「斬れば斬るほど、強くなって復活してくる、何度でもな」
「でも、“コア”に手は出せない……完全に手詰まりじゃないなっ」
ハヤブサはムササビに顔を寄せる。
「……いや、僅かだけど、あの身体にも“コア”の気配を感じただろ? 多分、再生には“
「──あんた、ちょっと、このバカみたいな結界破るのに、あと、何百回、何千回、あいつを斬り倒さないといけないのさ! その前に、こっちが根負けするわよっ!」
「ま、まあ、現実的ではないよな……」
詰め寄るハヤブサを
「じゃあ、やっぱ、この結界を瓦解させるしかないな」
「だから、どうやって、すんのさ」
ハヤブサはじっと目を細めて、ムササビを見る。
「いるだろ、この“クラフト”で、唯一、魔力を使える奴が」
ムササビは相変わらずの薄い笑みを携えている。
「それって──」
「そう、あいつ」と、再生を遂げたオリジンを指差す、ムササビ。
「あいつ自身の手で結界を破ってもらおう」
「なるほどね」と、頷くハヤブサ。
「これ以上、ぶった斬るのはナシ。じわじわと痛め付けて、あいつがフラストレーション爆発させるのを待とうぜ」
意地悪な薄い笑みを浮かべるムササビ。
「うわー、やな笑顔。とても家族には見せらんないね」
呆れ顔のハヤブサ。
「はぁぁ、超地味な作戦……」と、ハヤブサはどこか寂しげ。
「仕方ないだろっ、これしか方法がないんだからっ」
ムササビは少しムキに、ハヤブサを
「ま、今できる、最善の策だね。とりあえず、あの結界が本当に“コア”か確かめないといけないし」
二人と一体は激しく踊り狂うように火花を散らせ、戦い続ける──
──現れたのは巨大な闘技場。
真っ白い空間ということ以外、今までのどの空間よりもしっかりと造り込まれた建造物。
──その観客席の一番上にカナタはいる。
闘技場を囲う薄緑の光り。
(なんだ、ありゃ?)
真っ白な天井に空いた黒い穴。
(これは……一体?)
その下で戦う二人のランダー、ムササビとハヤブサ。
(オリジン──!)
これまでの辛酸を思い出し、カナタは拳をぐぐっと固める。
観客席を模した白い空間にぽつんと佇んでいる後ろ姿──ナツモだ。
「──おい、コウセイ、どうなってんだ?」
オリジンと戦う二人をじっと眺めるナツモの後ろ姿にカナタが尋ねる。
「なんだ、来たのか……」
ナツモは振り返りもせずに、ぽつりと呟く。
その素っ気ない態度がカナタの短気に着火する。
「おいっ! んだよ、その態度はよぉっ!」
カナタはナツモの肩を掴み、無理矢理、振り向かす。
凄まじく不機嫌なナツモの鋭く険しい目つきにカナタは一瞬、たじろいだ。
「──てめ、この野郎、喧嘩売ってんのかっ!」
「離せよ、痛えな」
ナツモは無愛想にカナタの手を振り払い、闘技場へ向き直る。
ツーンと冷たいナツモの後ろ姿。
「そうだな、そうなんだな、喧嘩売ってんだな!」
わなわなと肩を震わせるカナタ。
「──サンザ、来てくれたんだな」
イヤーカフからムササビの声。
「──遅かったじゃない」と、ハヤブサ。
ぶつかり合う金属音が耳元で鳴り止まない。
「実はさ──」と、ムササビはことの経緯を語り始めた──
「──なるほど、事情は分かりました。要は、このガキ、自分がトチったにも関わらず、自分だけ締め出し食らって、不貞腐れてんすね」と、カナタはナツモの左頬を引っ張る。
むすっとした表情で前を見つめるナツモ。
「──そういうことだから、ちゃんと優しくしてあげなよ」と、ハヤブサ。
カナタはナツモの頬を離す。
「よっしゃっ!」と、手の平を拳で叩き、観客席を上がっていく。
闘技場を見下ろし、深呼吸を一つ、勢いよく走り出すカナタ。
「オラァァァーーッ!!」
薄緑に光る壁に飛び込んだ──!
「──!!」
──飛び込んだはずの白い地面はそこになく、気付けば、観客席の中ほどにいる。
呆然と立ちすくむカナタをしらけた目で眺めるナツモ。
「なあ、バカなのか、本物のバカなの、お前?」
「うるせえっ」と、耳を赤く染め、顔を伏せるカナタ。
「──サンザはそこにいてくれ」
激闘の最中、ムササビが言う。
「“ロマンサー”は持ってきたか?」
「ええ、まあ、一応……」
「ナイスッ。だったら、サンザは《後方》だ」
「あぁー、なんでだよ、俺だって、そのバカ面、ぶん殴りてえって!」
駄々っ子のようなカナタの口振り。
「ダーメ。今回、サンザは“後方狙撃手”」と、ムササビ。
「──つっても、結界のせいで狙撃もクソもねーんじゃねーの?」
「いや、この結界、思ってるより脆いわよ」
「えっ? それどういうことなんですか、ハヤブサさん」
「──ねえ、なんで、ケイには敬語なの?」
「急拵えの結界、精度は低い。強力な魔導の一つでもぶち込めば、瓦解するはず」
「そいうこと」
「だからって、“神龍寺”の奴等のせいで、魔導使えないでしょ……てか、そもそも、俺、魔力ねえーすよ」
「だから、ここで唯一、魔力を使える奴に使わすの」
「えっ、それって、もしかして、オリジンにですか?」
「はい、よくできました」と、ハヤブサはわざとらしく、お立てる。
「──どうやって?」と、カナタが尋ねる前に、ムササビが話し出す。
「今、オリジンをチマチマと攻撃して、削ってんだけど、こいつ、多分、そのうち、痺れ切らして、大雑把な攻撃してくるはずだ。結界ギリギリまでオリジンを引き付けて、俺たちは攻撃を躱す──自分自身で結界を攻撃させるわけさ」
「……なんか、セコいっすね……」
「──それ以外に結界破る方法なんて、ないじゃない!」
語気を荒げるハヤブサ。
「他になんかアイデアあんの?」と、ハヤブサはカナタを
「──で、ま、まあ、結界が瓦解したところで、お前の“ロマンサー”が火を吹くわけだ」
ムササビが間に割って入る。
「なんつっても、“コア”の場所が分かってなかろうが関係ないだろ。当たりさえすれば、確実に滅することができる“一撃必殺”なんだから、それが一番、手っ取り早い方法だろ」
カナタはどこか不満げながらも頷く。
隣りにいるナツモも何故か不満げ。
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