33

刀を拾い上げたナツモはハヤブサに「ありがとうございます」と一言。


しかし、その顔は──

「──ちょっと、何で不満げなのよっ」

ハヤブサはナツモの浮かない顔に尋ねる。


「いや、そんなことないっす……はい。来てくれて……すげえ感謝してます」

歯切れの悪いナツモ。


「全然、感情こもってないじゃないっ」

「いや、まあ……別に、俺一人で倒せた、ってか……倒したかったっていうか……まあ、その……ハヤブサさんのお手を煩わせるほどのこともないかなぁなんて……思ったんで……」

ナツモはさらに歯切れが悪く、口籠もる。


「なんだか、よく分かんないけど、これでも、超特急で駆け付けたんだから、もう少し、感謝してほしいもんよ」


ハヤブサは呆れ気味に溜め息。ナツモの右腕に視線を落としたが、それ以上は何も言わない。


「まあ、ナツモ君も一人で大変だったよね。珍しく苦戦気味みたいだし」と、一言。

ナツモの苦い顔つき。


「いや、だから何で、不貞腐れてんのよっ」

「いえ、別に、そんなことないっすよ。討伐も全然、余裕で、楽勝って感じで、まあ、今からちょっと本気出そうかなんて思ってたところですし、全然、大変でもないし、苦戦とかしてませんから……」


「そんなこと言って、さっき、けっこうヤバそうだったじゃない! 絶体絶命って感じで、私が助けに入らなかったら、マジで危なかったでしょ」

食い下がるハヤブサ。


「はあ? 何言ってんすか、先輩。あれのどこをどう見たら、絶体絶命に見えんですか?」

ナツモは食って掛かる。


「だって、悲壮な顔して、オリジンから逃げ回ってたじゃないの」と、ハヤブサの冷めた目。

ナツモはそっぽを向く。


「……あれはただのフリですよフリ。そうやって、油断させといとて、俺の必殺奥義が炸裂する予定だったんですよ」

バツが悪そうに答えるナツモ。


「必殺奥義ってなにさ?」と、ハヤブサは怪訝そうに尋ねた。

「……内緒です」ぼそりと呟いた。

ハヤブサは諦めたように吐息をく。


「まあ、そんだけの威勢があんなら大丈夫ね。気持ち折れてないわよね」

「当たり前じゃないですか」


即答するナツモ。ランダーの真っ直ぐな眼差し。

ほくそ笑み、小さく頷くハヤブサ。


二人はほとんど同時にオリジンを見た。


──切断面からあふれる泥のような液体はオリジンの身体を元通りにくっつけ、オリジンは遠くで左右にくねくねと首を振っている。


「収穫は?」

「ボディははけっこう硬くて、伸縮性と俊敏性があります。あいつの身体能力も厄介ですが、それ以上に厄介なのは、奴の持つ、あの輪刀ですね」

「見るからにヤバめだね。なんか、乗り回してたし」


「ええ、攻防一体って感じで、乗り回したり、ブーメランみたく飛ばしたり、転がしたり、素でも、ブンブン振り回してきます。間合いも広くて、輪刀を盾やフェイントにして、打撃もしてきます。打撃も相当な威力なんで気を付けてください」

「了解」


「それと、あいつの“コア”は多分、あの白菜みたいな頭っす」

「根拠は?」


「胴体は、さっきのハヤブサさんのを入れて、四回、ぶった斬ってますけど、あの通り、ピンピンしてます。胸元も三度、斬りましたけど、同じでした。防御自体は荒っぽいのに、首から上の攻撃はことごとく、避けるか、防いできます」

「──なるほどね」


ハヤブサはじっとオリジンを見つめる。不愉快そうに眉を顰めた。

「……なんか、あいつの仕草、腹立つわね」


「ええ、声とか聞くと、そのウザさが十割増しになります」

経験者が語る。


「──なら、とっとと片付けちゃおうっ」と、ハヤブサは肩を回す。


「あの、ハヤブサさん──」

「ん、何?」


ハヤブサはじっとナツモを見つめる。

──ナツモの脳裏に過ぎったハルマの顔。


「なんであんな奴を?」と、喉まで出掛けた疑問は押し殺す。

今ここで議論しても仕方がない。


「……いえ、何でもありません。さっさとケリをつけましょう」

ナツモの妙な間にハヤブサは少し違和感を覚えたが、「ええ、そうね」とすぐにオリジンに向き直る。


「前陣が二人、それも、超攻撃型のアタッカーが二人よ……ナツモ君っ、フォーメーションもへったくれもないわ、攻撃あるのみっ、攻めて、攻めて、攻めまくるよっ──!」

ハヤブサが駆け出す。


「はいっ!」

後に続くナツモ。

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