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やや青みがかった黒髪はアシンメトリー。

猫目の青い瞳。好青年然とした顔立ちだが、どこか影を帯びた近寄り難い冷淡な雰囲気。


左耳にはピアス。

黒い金具から垂れる二環の鎖に透明な鉱石を付けたそのピアスは、堅物面の彼には、些か不釣り合いに見えた。


細身の体躯に似つかない武骨な刀を手足のように操り、魑魅魍魎、悪鬼羅刹を斬り伏せる。


磨き上げた剣技は苛烈にして冷酷。老練にして華麗なる腕前。


麝香機関屈指の天才剣士。

──夏雲綱星。


彼は今、激闘の渦中にいる──


──ぶつかり合う度に火花を散らす刃と刃。


ギンッ! キン、キンッ、キンッ! ギンッ!


己の体躯よりも大きな輪刀を難なく操るオリジン。

一度目の戦闘時よりも、その扱いは上達していた。


(──こいつ、輪刀の扱いが上手くなってやがるっ)


その要因は他ならぬ、ナツモにあった。

皮肉にも、ナツモとの交戦がオリジンの能力を向上させていたのだ──。


オリジンは輪刀を素早く振り抜くために身体をしならせる。


繰り出される斬撃は速く、重い。

斬撃だけではなく、蹴りや殴打、打撃を織り交ぜて、ナツモを殺しに掛かる──!


しかし、怯まない。脅えない。退かない。受けて立つ。


ギーーンッ! ギンッ、ギンッ、ギン!

弛まぬ研鑽を積み重ねた信念は容易たやすくは折れない。


オリジンの凶刃を紙一重で躱しながら、刀を振り続けるナツモ。


それは華麗に舞い踊る舞踏家のようにも見えた。

回転を上げる斬撃。手に持つ武骨な刀が鮮烈に乱舞する。


──斬刃乱舞。躍り狂う刃の舞。

魔物の身体に刻まれていく斬痕。


たまらず、オリジンはカエルのような跳躍でナツモから大きく距離を取る。


そして、邪悪な笑みは浮かべたままで、身体をねじる──まるで目一杯に絞ったタオルのような姿。


捻れた身体がグルグルッと勢いよく戻る。

その勢いを利用して放たれた輪刀は凄まじき速度でナツモを急襲する。


遠心力を付加した輪刀は、熊や野牛とて一刀両断に斬り倒すことができるであろう威力。


ナツモは大きく横に避けたが、輪刀は後ろでカーブを描き、再び、ナツモへ襲い来る。


「──チィッ!」

躱した輪刀はオリジンの手に返り、その反動を利用してオリジンはまたグルンッと身体を捻らせ、輪刀を投げ放つ。


輪刀を躱すナツモの目の先にオリジンはもういない。

素早く、ナツモの背後に移動している。


「──ッ!!」

飛んできた輪刀を掴み、身体を捻らし、投げ放つ。

鋭く重い風切り音を引き連れ、鋼鉄の円盤がナツモを襲う。


輪刀を躱すその背後には必ず、邪悪な薄ら笑みを浮かべたがオリジンがいる。


輪刀を投げ放つと、素早く移動して、輪刀を掴み、また投げる。


掴んでは投げ、投げては掴み、闘技場を飛び交うオリジンと輪刀。


先程とは打って変わって、防戦一方のナツモ。

オリジンとの距離を縮めることができない。


大きな環の斧のように分厚い刃は、その重たげな見た目に反して、息つく暇も与えぬほどの猛スピードで四方八方からナツモを叩き斬らんと宙を駆ける。


不気味な笑みを浮かべるオリジンが遥か遠くに感じる。


無闇矢鱈と広いこの闘技場は、このために造られてたのだと、ナツモは確信した。


──メキメキッと腕に力を込めるナツモ。


「ちょこまか、ちょこまかと……いい加減に、しろよっ!」


襲い来る輪刀に鬼包丁をぶつける。

凄まじき金属音が闘技場に走った。

それでも、輪刀の回転は止まらない。


「だらぁぁぁあーーっ!」

火花を撒き散らせ、鬼包丁を押さえ込む。


「──クソがぁぁっ!」

奥歯を噛み締め、踏ん張るナツモ。


だが、輪刀の威力が勝る。

ナツモは観客席まで吹き飛んだ。

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