26
──二人はクラフトを進む。
任務を続行するにせよ、退避するにせよ、入り組んだクラフトを進まなくては道は開けない。
「──あの、ナツモさん」
ミトミ隊員は少し前を行くナツモにおじおじと話し掛ける。
「……なんだ」
「さ、さっきの、あの技って……もしかして……」と、ミトミ隊員は口籠る。
「もしかして、なんだ?」
「は、はいっ。あの、なんと言いますか……こう、何度も、カクカクっと、ビヨンドの大群を横切るようにしてやってましたよね、あれってもしかして……」
ミトミ隊員は先程、自分が目撃した光景を指先で宙をなぞりながら、ナツモに話す。
「“ハヤブサ斬り”だよ」と、ナツモは事も無げに答えた。
「やっぱりっ!」と、ミトミ隊員の顔が明るなった。
「すごいですね、いつ覚えたんですか!?」
「さっきやったのが始めてだよ」
「えっ?」っと、ミトミ隊員は固まる。
振り返る、ナツモ。
「……ハヤブサさんとは何度も一緒に任務こなしてるから、あの技だって、何度も見てんだ。さすがに何度も見れば、見様見真似でもできんだろ、普通──」
ミトミ隊員は顔を引き攣らせる。
「はあ」と、一言。
間を取り繕うように続けて──
「──で、でも、見様見真似で、同じようにできるなんて、すごいですね」
ナツモの険しい目つき。
「はぁっ? 全然、同じじゃねえよ」
「えっ?」
ビクッとミトミ隊員の肩が上がる。
「俺は最初に地面を蹴るとき、なんつーか、ダンッとかドンッて感じだけど、ハヤブサさんはもっとこう、なんていうか……トンッ、タンッて感じだし、方向転換するときも、俺は、ギュンッていうか、ギュインッて感じだけど、あの人はもっとスマートに、シュンっていうか、スパッンッて感じで曲がるし、全体的に、俺は、ギュギューンって感じだけど、ハヤブサさんは、もっとこう、バキューッンって感じだろ?」
ナツモはさも当たり前かのような目でミトミに同意を求めた。
(……ヤバい、何言ってんのか、全く分からない……)
そんな、ミトミ隊員の戸惑いを察したのか、ナツモは──
「──まあ、用は、全然違うってことだ」と、ムスッと言い切った。
「は、はい」と、短く頷く。
「──でも、あの技は、確かに、大勢の敵相手には、すげえ便利だった。だけど、俺は振った刀の重みも利用してスピードを維持してたけど、ハヤブサさんは余計な力みもなく、最後まで勢いを殺さず、シュピーンッて感じだったんだ……きっと俺にはまだまだ余計な力みがあんだよ。もう後、二、三回はやってみないことには、完璧とは言えねえ」
(……あと、二、三回、練習すればマスターできんだ、この人……)
ミトミ隊員は、ナツモの底知れぬ才気を感じながらも、引き攣った笑みを浮かべるしかなかった。
──不意に、前を行くナツモが立ち止まる。
X―TREKが魔障を感知している。
魔導士であるミトミ隊員と彼の持つ魔導機器もそれを感じ取っている。
「この辺りなら、なんとか大丈夫そうだな」
ナツモはX―TREKを眺めながら言った。
「よし、ミトミ、“
「はいっ」
ミトミ隊員は手帳サイズの二つ折りの魔導機器を開ける。
手早く、必要項目を入力していく。
「──あの、指定条件はどうしますか?」
「
ミトミ隊員はナツモの言う条件を素早く入力していく。
しかし、最後の最後で、悔しそうに顔を曇らした。
「──どうかしたのか?」
「……ダメです」と、ばつが悪そうに答える。
「緊急援助要請……何度やっても、発信エラーです。
ミトミ隊員は苦虫を噛み潰したように言った。
「“スクエア”も“サークル”も、両方か?」
「いや……」と、ミトミ隊員は魔導機器の画面を食い入るように眺める。
「“サークルホール”……なら、なんとかなりそうです。でも、条件はもう少し、シンプルな方がいいです」
「なら、今現在、エントリーしてない隊員で一番強い奴だ」
「分かりました」と、ミトミ隊員は最後のキーを押した。
魔導機器の画面に《開通中》の表示。
程なくして、──魔導障壁の影響によるものだと思われる──通常の四分の一程度の重厚で堅牢な鉄製の丸い扉が空中に出現した。
「じゃあ、ナツモさん、行ってきます」
ナツモの目を真っ直ぐに見るミトミ隊員。
「ああ、頼んだぞ。それから、
「はいっ」と、ミトミ隊員は、力強く敬礼する。
──ナツモはミトミ隊員を見送り、自分の魔導機器を懐から取り出す。
経過報告
現在地不明。
恐らくは、最下層付近だと思われるエリアに飛ばされた模様。
同エリアに置いてビヨンドの大群と交戦。オールクリア。
交戦後、魔導隊員、三冨条太と遭遇。
互いに外傷なし。コンディション良好。
ビヨンドとの交戦地より二時方向へ20分程の地点にて、妨害波の影響の少ない場所を発見。
緊急援助要請を試みる。
しかし、妨害波の影響により、スクエアホール開通ならず、辛うじてサークルホールを開通。
ミトミ隊員を出向させた。
自身はこれより、他隊員の発見と救護を継続しながら最下層を目指す。
報告以上。
BN-3799-T15 夏雲
──ナツモはメールを送信し終えると、魔導機器を懐に戻した。
「奴を斬る」
疼く右腕を黙認しながら、一言、呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます