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「──私には扱いずらいので、ハルマさんが持っていってください」


折れたナイフに代わって、ヒワハ隊員からハルマはマチェット型の短剣を受け取った。


それは、麝香機関所属のランダーに──例外なく──支給される基本装備の一つで、ハヤブサが、三体の獣型ビヨンドを切り刻んだ刃渡り50cmのそれと同じ物であった。


「ありがとうございます」と、ハルマはぺこりとお辞儀した。


「──あっ、なんか、食い物持ってない?」

頭を上げたハルマは思い出したかのように無垢な瞳で言った。


「──お前、けっこうやるんだな」

カナタはまじまじとハルマを見る。


ハルマはヒワハ隊員からもらったストロベリーとチョコ味のエナジーバーを頬張っている。


「──“アラートクラス”を一人でやっちまうなんて、どんな手、使ったんだ?」


ハルマは、うーんと、エナジーバーをかじりながら、しばらく考えたが──

「──説明すんの難しいから、また今度、ゆっくり話すわ」と適当に流した。


「お、おう──」


次に封を切ったのは、キャラメルとバニラ味。中には細かく砕いたナッツとアーモンド。


「──ところで、カナタはあの娘が言ってた“魔導士”ってやつなのか?」


「あっ? ちげーよ、俺は“武装隊員”、魔力は使えねよ」


「その割には、軽装なんだな──」と、カナタを眺める。


二挺のハンドガンとナイフ、ハルマと同じマチェットタイプの短剣。そして、腰と足に付けた大小のポーチだけだ。


──呆れ顔のカナタ。

「たりめーだろ、身軽に動けるように、必要最低限の装備以外は“オーダーストック”してんだからよお」


きょとん顔のハルマ──

「……なに言ってっか、さっぱり分からん」

「なんでだよっ!」


「なんせ、さっきだからな、ランダーになったの」

なぜか、勝ち誇ったかのような顔をするハルマに、カナタはイラッとしたが、仕方なく、ランダーのイロハを教えてやった。


──ランダーは大きく「武装隊員」と「魔導隊員」に分かれる。


世界中にいるランダー全体のおよそ、六割から七割が魔力を持たない「武装隊員」と言われており、ビヨンド討伐における戦闘要員であり、前線で直接ビヨンドと交戦する隊員達だ。


「魔導隊員」は魔力を持つ──魔力の扱いに長けた──ランダーで、主に魔導機器を用いて、クラフト内での魔障調査、進路確認、戦闘補助を担う。もっとも、「魔導隊員」のなかにも、「武装隊員」と同じく、前線に立ち、戦いに参加する者もいる。また、魔力を持つ武装隊員を「魔装隊員」や「魔戦士」と呼ぶ。


ランダーの最小編成は、武装隊員二人に対して魔導隊員一人を当てた三人体制を基本とし、三人一組スリーマンセルで任務に当たるのが一般的である。


戦闘陣形フォーメーションは前方隊、中間隊、後方隊に分けられ、その区分は隊員の扱う武器や魔導機器によって決まる。


例えば、刀や剣を使う剣士は前方隊(前陣)となり、槍や薙刀を扱う槍士は中間隊(中陣)、弓やボウガンを使う弓士なら、中後隊(中陣後方、もしくは後方前陣とも言う)、銃火器や魔導機器を扱う銃士や魔導士は後方隊(後陣)となる。


これは隊員の得意とする武器による基本配置であり、いずれの場合も、環境や隊員数、個人の特性などによって陣形の配置は様々に変化する(前陣の銃士や中陣後方の魔導士など……)。

ランダーがクラフトへ入界する場合、装備は必要最低限が望ましい。


これは、状況が変化しやすいクラフト内で素早く行動するためであり、行動が制限されるような荷物は全て、「オーダーストック」というシステムによって管理されている。


任務に必要な装備、道具は──麝香機関の場合は──武器庫に保管されており、麝香機関所属のランダー隊員が持つライセンスと武器庫は特殊な魔導術でリンクしている。


故に、魔力がある無しに関わらず、全てのランダー隊員が、ライセンスを媒体にして、武器庫から武器や魔導機器、道具などをいつでも召喚することができる。この召喚術を総じて、「オーダーストック」と呼ぶ。


もっとも、好き勝手に様々な物を召喚できる訳ではなく、決められた容量の範囲内で──調査隊の報告を元に──事前に任務に必要な装備品や道具を選定し、召喚登録する。


「武装隊員」ならば、武器や弾薬、戦闘を補助する道具などを選び、「魔導隊員」ならば、武器の他に、魔導機器や救急道具などを選ぶ。

なお、この召喚術はいかなる妨害術をもってしてもとされており、術を発動してから約0.05〜1.5秒の間に登録した物を召喚、返還することができる──

ランダーにとって、最も基本的で最重要な魔導術であることは言うまでもない。


──カナタの説明を、吹けば飛ぶような集中力しかないハルマが一体、どこまで理解できたかは分からない。


ハルマは四本目の──ココアとハチミツ味のドライバナナ入り──エナジーバーを食べ終えて、カナタに尋ねる。


「じゃあ、魔導士じゃないなら、カナタは前陣か中陣ってことか」


カナタは待ってましたと言わんばかりに親指で自分を差し、「いやいや、俺は、こう見えて、万能型だからな、魔導機器以外はなんでもござれだ」と、鼻を高くした。


「なんとっ」

「どうだ、驚いたかっ」と、したり顔でハルマの背中を叩いた。


「うっす」と、ハルマは頷いた。

「ああ、それから、俺のことは、サンザって呼べ。親しい奴らにはそう呼ばれてる」


「……サンザ?」

「縢太三郎三。三、郎、三、で、サンザだ」


「……なあ、サンザ、お前、“オーダーストック”に、なんか食い物入れてないの?」


「入れてるわけないだろ、バカタレ」

「なんでだよっ!」

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