19
──ガレージにミトミ隊員を残し、ハルマとハヤブサの二人は「クラフト」に入界している。
クラフト内を足早に進みながら、ハヤブサは
先に入界したランダー──ハヤブサは「神龍寺」と呼んだ連中──の魔導術により、一箇所に溜まった魔障。その高濃度の魔障を吸収した、このクラフトの創造主であるオリジンは進化を遂げたこと。
その影響により、クラフトも再形成され、ハヤブサたちが最初に足を踏み入れた時とは全体の大きさも構造も変わってしまったこと。
形成期を終えたクラフトの構造が再成形されるなど、異例中の異例であること。
再形成により、クラフト内の構造が一変してしまったため、右も左も分からず
再成形の際に、部隊は散り散りになったが、幸い、ハヤブサの近くには他の隊員がいたこと。
「神龍寺」の施した魔導術のせいで仲間たちとも外部とも連絡が取れずにいること。
魔導術の影響が少ないエリアを探して、「緊急援助要請」を発信したこと。
──まず第一に、仲間たちとの合流。
──第二に、負傷者の保護と残された隊員とやって来る援軍とで、マスタービヨンドの討伐。
しかし、“神龍寺”の魔導術により、援軍要請は上手くいっていないであろうと、ハヤブサは言う。
──孤立無援。
今ここは、複雑に入り組んだ迷路の中──
狂暴な怪物の棲まうラビュリントス──
「──最悪の場合、私たちだけで、オリジンと対峙しなきゃならない」
ハヤブサは険しい顔で言った。
「ま、その可能性は限りなく高いね」と、諦めたように一笑。
ハルマはミトミ隊員からコンバットユニフォームの上着だけを交換していた。
見た目に反して、軽くて、抜群の伸縮性があり、非常に動きやすかったので、先ほどから、意味もなく腕を振り回していた。
「──って、君、全然、緊張感がないわね」と、ハヤブサは呆れ顔。
「ランダーって言っても、ついさっきまではただの一般人だったワケでしょ、いきなりクラフトに入界して、よくそんなに普通でいられるわね」
ハルマはミトミ隊員から上着の他に、支給品のサバイバルナイフと小型のツールナイフ、応急処置用の救急キットがパンパンに詰まったポーチのみを受け取っていた。
彼の装備は今、それだけである──
行手を阻むように目の前に三体の
狂った
獰猛な野犬のような飢えた殺意を放つ。
「お出ましね」
そう呟き、戦意とは裏腹にハヤブサは腕を組んだ。
(まずは、ハルマ君、君の腕を見せてもらうわよ──)
ハルマはハヤブサを見る。
「なあ、あれ、“ビヨンド”ってやつだよな」
「ええ、そうね」
ハヤブサは無愛想にビヨンドを見つめて言った。
(曲がりなりにも、私の指定した──
──ハヤブサは動かず。
「『ええ、そうね』って、ぶっ倒した方がいいんだよな?」と、ハルマはビヨンドを指差す。
「──そうよ」
唸るビヨンド。見つめるハヤブサ。
「ねえ、なんで、いきなり、
「さあ、どうかしら──」
と、ハヤブサが言い終わると同時、ハルマはビヨンドに向かって走り出す。
そして、吠えるビヨンドのその顎を蹴り上げた。
そのまま、口元を掴み、壁に押し付け、頭部に肘鉄を一発。
壁に頭をめり込ましたビヨンドは力なく倒れた。
(──わぉっ)
ハヤブサは目を見開く。
噛みつこうと飛び掛かるビヨンドの胴をつま先で蹴り上げ、横倒しになった、その頭を踏みつけた。
唸るビヨンドの横っ面をぶん殴る。牙を剥き出しに歯向かうビヨンドを躱して、身体を持ち上げると、地面に叩きつけた。そして、ガラ空きの腹を勢いよく蹴るとビヨンドは後方の瓦礫まで吹き飛んだ。
(──無茶苦茶ね)
「──よっしゃ、ミッションコンプリートだな」
ハルマは清々しい笑顔でハヤブサの元へ戻ってくる。
「これで、もう大丈夫だな。よし、帰ろうぜ」
「──君、何言ってるの、まだ何も終わってないわよ」
冷めた目でハルマを見るハヤブサ。
「えっ、だって、今のボスビヨンドなんじゃ……」
「違うわよ。あんなの雑魚中の雑魚、雑魚オブザ雑魚、よ」
「だって、あんた、さっき、そうかもね、的な発言を……」
「どうかしら、とは言ったけど……それに、オリジンはクラフトの最下層にいるものよ。こんな、道すがらで遭遇したりしないわよ」
「無茶苦茶だな──」
「まあ、いきなり現れたビヨンドに物怖じしないで向かっていく胆力と、
そう言って、ゆっくりと歩み出すハヤブサ。
「でも、ハルマ君、覚えておいて──」
ハヤブサは腰元の短剣を抜く。
「──並の獣なら、確かに、今の攻撃で仕留められるわ……」
ハルマは目を見開いた。
今、倒したはずのビヨンド達が息を吹き返し、起き上がっているではないか。
「──“こいつら”は簡単には死なない。首と胴が切り離れても、平然と生きてる奴もいるぐらいにね」
ハヤブサを睨み、唸り声を上げるビヨンドたち。
怒りに任せて、襲いかかる三体をハヤブサは一瞬で細切れに切り裂いた。
──声もなく、肉塊と化すビヨンド。
短剣を鞘にしまい、ハルマの元へ戻るハヤブサ。
冷徹な琥珀色の瞳。
「ハルマ君、覚えておいて。ビヨンドを殺るには、専用の武器が必要よ。対ビヨンド用に特別に錬成された武器が。君の持つそのナイフとかね──」と、ハルマの携帯するナイフの柄を指で叩いた。
「うっす」と、短く、ハルマは頷く。
「To be continue」ハヤブサは不敵に微笑んだ。
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