5

「ちょっとぉ! 私の出番は!?」

ナツモを恨めしげに睨むハヤブサ。


「……ありませんでしたね」

涼しげにさっぱりと答えるナツモ。


「ありませんでしたね、じゃなくてさぁ、少しは私にも……あ、ちょっと──」


ハヤブサの抗議を尻目に、ナツモは隊列に戻って行く。


「前方の敵陣、オールクリアです」と、ムササビに一言。


「──うん。じゃあ、進みましょうかね」


鼻先まで伸ばしたバトルスーツ越しに薄い笑みを浮かべて、ムササビは言った。

その声に隊員たちはどこか安堵を覚えた。


再び、最下層を目指して進み出した一行。

一歩進む度、魔障の濃度がぶわりと上がっていくような感覚にさいなまれる。


重たい空気の中を潜るように、それでも歩みは止まらない。


カナタの前を歩く、魔導隊員のふらついた足取りがとうとう限界に──スーッと目の前が白く、膝の力が抜けていく。


そのまま倒れそうになる魔導隊員の腕を掴むカナタ。


「大丈夫か?」

「──あ、すいません……少し、眩暈めまいが……」


先程、カナタに詰め寄られた隊員は、おっかなびっくりにハッと姿勢を直す。


「魔障に酔ったか?」

「はい……私、昔から、体質的に魔障にあてられやすくて……」

申し訳なさそうに、カナタに言って、せかせかと歩き出す。


カナタは懐の錠剤をおもむろに魔導隊員に手渡した。


「あ、あの、これは……?」

「酔い止めだ。飲みこまずに、舌の上で溶かして舐めてろ」


「ありがとうございます」と、魔導隊員は少し大袈裟に言って、錠剤を口に入れた。


カナタが前を向く。

ムササビが立ち止まってを彼を見つめている。


サングラスとバトルスーツで表情は読めないが、恐らくはニヤついてる──


「なんすか」と、ぶっきらぼうにカナタ。

「いやぁ、別に。……案外、後輩思いだなあと、思ってさ」


サングラスを外して、しげしげとカナタの顔を眺めるムササビ。


「……別になんてことないでしょ。仲間同士なんだからよ」

カナタは気まずそうに、そっぽを向いた。


「──ちょっとっ! 隊長のクセして、隊列乱してんじゃないよっ」

「ムササビさん、何やってんですかっ」


先頭を行くハヤブサとナツモの叱責が、耳元のイヤーカフから聞こえてくる。


「あ、ごめん、ごめん」と、ムササビはカナタに目配せを送り、前列に戻っていった。


最下層に近付くにつれ、ビヨンドとの遭遇は増えていく。


幸い、先程のような群れではなく、数体程度が姿を現すだけで、先頭の二人が難なくそれを斬り倒していく。


ここにきて、ノービス隊員たちは二人の背中を心強く思う。


──そう、気を楽にしたのも束の間。

一行は大きく開けた場所に出る。そこでビヨンドの群れが待ち構えていた。


先程の群れの倍、いや、三倍はあるかという数のビヨンドが一行を取り囲む。


低い唸り声を上げ、殺意に満ちた眼光で獲物を睨む。


不敵な笑みを浮かべるハヤブサ。

「──ずいぶん大勢でお出ましね、

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