3
「──しっかし、こんなになにもねぇクラフトってのも珍しいな」
カナタは辺りを見渡す。
無機質で無表情な大理石造りのような建造物に囲まれた薄暗く、どこまでも冷めきった白々しい空間。
「上、中層にいたはずのビヨンドは今は、一番、魔障の濃い下層階にいるはずだ」
眉を寄せてナツモの顔を見るカナタ。
「コウセイ、なんの根拠があって、んなこと言うんだよ?」
「──コウセイの言うことも、あながち間違いじゃないと思うよ」
薄い笑みでムササビが口を挟んだ。
「ビヨンドの習性からして、その可能性はかなり高い。魔障はビヨンドにとって酸素であり栄養源みたいなもんだから、より濃い魔障を求めて、下層階に集まっていると予想される。だから、これからきっと忙しくなるぞぉっ」
ムササビは脅かすように、ふざけてカナタに顔を近付ける。
「俺は忙しくなくて、全然、かまわないんですけど……」
「──なんにせよ、こっちの魔導班は使い物にならない可能性が高いんだから、肉弾戦になるわね、きっと」
ハヤブサは横目にちらりと魔導士たちの方を見て、不安げに四人を見つめるその一人と目が合い、すぐに視線を放した。
「だったら、ノービスはここに待機させて、ここから先は俺達だけで行くっていうのはどうですか?」
ナツモは真っ直ぐにムササビを見つめて言う。
なんなら、俺が“オリジン”をぶった斬って、戻ってきます──と、喉まで出かかった台詞をぐっと押さえ込んだ。
──それでは、あの頃と何も変わらない。
「うーん、それはさ、俺も考えたんだけど──」
「──私はナツモくんの意見に賛成。足手まといになりかねない人員は置いていくべきよ」
「俺もそうした方いいと思いますね」
後押しするようにカナタも二人に同意した。
──しばしの沈黙。
「いや、やっぱ、全員で行こう」
ムササビはいつもの薄い笑みを携えて三人を見る。
「この辺りにだってビヨンドが出ないとは限らない。残された者だけで対処できないような魔物が現れたら、それこそ危険だ」
携える薄い笑みは変わらず、ムササビは他の隊員の方へ歩み寄って行く。
「みんなっ、この先も、結界符や魔導障壁の影響で魔導探知もままならない状況が続くかもしれない。だから、魔導探知器の感度は最大にしといてくれ。それから、近接戦になる可能性が高いから、それに備えて、各自、武装と警戒は怠らないようにっ!」
ムササビの言葉に隊員たちに一瞬、緊張が走る。
誰からともなく、声を揃え、「はいっ! 隊長っ!」と返事。
「ああ、それと、それに伴って隊列も組み直すから、よろしくね」
ムササビはふと、後ろを振り返る。
不安げで不満げな顔のハヤブサ。
「大丈夫、責任は俺が持つからさ」
呆れたような、観念したような表情でハヤブサは浅く頷く。
「分かったわよ。隊長殿」
クラフトに入界した十二人のランダーたち──
先頭にナツモ、ハヤブサ。
中間にムササビ。
最後尾にカナタ。
──と、ノービス隊員を間に挟み、クラフト最下層へと歩みを進める。
──進むにつれて濃くなる魔障。
「どこもかしこも酷いな」
ムササビが呟く。
──どうやら、“
故に、最下層より流れ出る魔障は、上、中層へ昇ることなく、締め切った室内に籠る不愉快な湿気のように下層皆に留まっていた。
──咽せ返すほどに濃密な魔障の大気。
それでも隊員たちの魔導機器は反応せず──。
「──これはヤバいな」
ムササビは隊員たちにマスクの着用を命じた。
首を覆うバトルスーツの襟を鼻先まで伸ばす隊員たち。
目には特殊レンズのサングラス。
討伐隊がクラフトに入界し、初めてのビヨンドに出くわしたのは、その直後であった──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます