X日後-1 スマホ購入

「もしもし? あ、つながったー! へー、家にワイファイが来て、無料通話のアプリならどれだけ話しても大丈夫なんだね。いやー、家についてから一か月もしないうちにハガキが送られてきたときはびっくりしたよ。もしかして私、二か月くらい眠ってたのかなって思った。まあでも、そのはがきに連絡先が書いてあったのはもっと驚いたけど」


(学校とか、どう?)


「学校? 楽しいよ。元々学校は好きだったからね。あ、でも勉強は嫌い。特に数学。あんなのやってらんない」


(あははっ)


「うわっ、今笑ったなー? 確かに前得意科目の話した時に、君が理系っぽい話になったけどさ、でも高校の数学はもっとやばいんだからね。さぞ君も苦戦するだろうね。で、スマホ、買ったんだね。もしかして頼み込んだ? 私の持ってるスマホが気になって」


(それは、ちょっとある)


「ちょっとあるって、結構あるでしょー。で、ラーメン調べた?」


(うん。すごかった)


「でしょー? 私の言ってたこと、ちょっとはわかったでしょ?」


(でもあれは一杯も食べられないと思う)


「えー? 一杯ならおいしいんだって。まあ初めのうちは結構胃もたれしたけどさ。慣れたらおいしいだけだよ。こっち来たら食べなよ。ていうか、君島出るつもりあるの?」


(大学は島出ると思う)


「大学か。高校は島のなんだね。もしこっち方面の大学進むんだったら、案内させてよ。行きつけのお店、教えてあげる」


(それは、頼みたいかも)


「じゃあ決まりね…………ねぇ、あれから海は見た?」


(見たよ)


「私がいたところで、海見てる人なんていないでしょ?」


(うん。学校始まってから毎日通ってたけど)


「でしょ。ていうか、あそこ君の通学路だったんだね。いいじゃん。毎日海が見える道を通って投稿できるなんて。なんかロマンチック。ちなみにあの場所は?」


(あれから一回も行ってない)


「え、行ってないの? せっかくの君のお気に入りの場所なのに?」


(うん)


「なんで?」


(台風で、ベンチが壊れたから)


「……そっか。台風でベンチが。それは残念だなー。最近台風多いもんね。じゃああの写真が最後ってわけか。あっ、そういえばあの写真送るね」


ピロン。


(ありがとう……え!?)


「あの写真好きすぎて、ずっと待ち受けにしてるんだよねー」


(こ、この写真……)


「え? 写真がどうしたって……あっ」


(……)


「誤爆したぁ……今の、見なかったことにして」


(……)


「なんで黙ってるの? 怒るよ?」


(だって、きれいだったから)


「……きれい、だった? はぁ。あれはね、雑誌の読者モデルの写真。だから盛りに盛りまくってるから、実物はこんなのじゃなかったでしょ?」


(そ、そんなことなかったと思うけど)


「君の中の私、美化されすぎじゃない? まあ、本心なら嬉しいけどさ……あ、そういえば、あれから何回か告白されたんだよね。その、読モの話が出回って、同級生と、上級生から、一人ずつ」


(……)


「でも、二人とも断っちゃった。なんか違うなって思って。なんでだろうね。前はノリでも付き合おうって思ったのに、ね」


(……もったいなかったんじゃない?)


「ううん。もったいないなんて思ってないよ。どうせめんどくさいのはわかってるし。そうやって近づいてくるのは」


(そっか)


「……なんかごめんね。また愚痴っちゃった」


(僕でよければ聞くから、大丈夫)


「そ? ありがと。じゃあ今日はもう寝るね。まあこれからも電話できるわけだし。でも毎日はやめてね。重いし、付き合ってるみたいだから」


(……わかった)


「ふふっ、冗談だって。君だったら、かけたかったら毎日かけてきてくれてもいいから。私からは、気まぐれでかけるけどね。じゃあおやすみ」


 ピッ。


「はぁ。また会いたくなっちゃうなぁ」

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