3日目 記念日
「あ、こんにちは。今日も会えたね。っていうか、君、私に会うのちょっと楽しみにしてるでしょ?」
(それは……ちょっとある)
「でしょ? でも、私も嬉しいよ。君とこうやって話せるの。まだまだ帰らないけど、自分の家に帰ってから君と話せなくなるのが残念。スマホの一つでも持ってたら、連絡先交換できたんだけどね」
(家の電話ならあるけど)
「家の電話……それって固定電話でしょ? スマホからかけるにしても、通話料とんでもないからなし。まあでも、記念日くらいには電話してもいいかもね。誕生日とか」
(じゃあまだまだ先だなぁ)
「あ、そうか。君もう十五歳だもんね。少なくとも来年かぁ」
(誕生日、いつ?)
「えっ、私? 私はね、十二月の三日。ワン・ツー・スリーで覚えやすいでしょ? でも、いつも誕生日祝いとクリスマスがセットなんだよ。すっごい損してる気分。で、君は?」
(五月三日)
「五月三日……あ、憲法記念日か! 祝日だったらすごく覚えやすいね。でも祝日が誕生日だったら、学校でお祝いしてもらえないんじゃない?」
(うん。あんまり覚えられてない……)
「だよねー。あ、じゃあその日に届くように、ハガキ送るよ! バースデーカード、みたいな? そんな文化あるかわかんないけど。私なんだかんだ期末テストと被ることが多いから、お疲れ様会? みたいなのした時に色んな人に祝ってもらえるんだ。その時嬉しくって。だから、私も君をお祝いしたいな」
(じゃあ、住所言うね)
「うん。住所メモる」
僕は住所を区切りながら言う。
「…………おっけ。メモできたよー。じゃあ来年忘れずに送るね」
(あ、ありがとう……)
「じゃ、私もうそろそろ行こうかな」
堤防の上に立ち、こちら側に降りてくる。
「じゃあ、またね」
いつも通り、向こうに歩いて行ってしまいそうになる彼女の後姿を見て、今日はなんだか、もう少し一緒にいたい気がした。
(あ、あの!)
「ん? どうしたの?」
彼女はこちらに気づいて、歩み寄る。
(僕も誕生日、お祝いしたいから、その、住所、教えてもらえたら……)
「私の住所? お祝いしてくれるの? やったー! えーとね……あ、でもメモないよね。明日、住所書いたメモ持ってくるから、それでいい?」
(う、うん……)
「おっけー。じゃあ、今度こそまたね」
(あっ、ちょっと)
「え、まだ何かあるの?」
ちょっと呆れ気味に足を止める彼女。
僕はそんな姿を見て、彼女に失望させてしまったのではないか、と胸が締め付けられる思いをする。
「何そんな顔してんの? もっと話したいなら、言ってくれたらいいのに。そういうところは、やっぱりまだ中学生って感じだね」
(む、むぅ……)
「ふふっ、で、何?」
(明日、雨降るから、その……)
「えっ、明日雨降るの? そういえば天気予報でそんなこと言ってた気がする。どうしよう……この近くに、会えそうな場所ないかな。あっ、でも雨降ってる中で外出させるのも酷だよね……」
(別に、僕はそんなことないよ)
「そんなことない、って? ふふっ、ありがと。でも雨が降るんだったら堤防はやめといた方がいいよね。じゃあ君の家とかは?」
(ええっ、僕の家!?)
「ふふっ、そんなに驚かなくても。あ、でも知らない人いきなり呼び込んだらよからぬ疑いかけられそう。じゃあ、うち来る?」
(え)
「うち、おばあちゃんしかいないし、まあまあ広いよ? っていうか、おばあちゃんと君って知り合いとかじゃないの?」
(うん。前迎えに来てるの見た時、知らない人だったから)
「そうなんだ。島って案外そういうの無いと思ってたからさ。皆家族、みたいな? うちの周りだけだったんかな……まあいいや。じゃあ普通に明後日の……五時で。あ、夕方のだよ?」
(分かった)
「じゃあね」
彼女は少し軽い足取りで歩いて行った。
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