2日目 愚痴
「あ、また会ったね。昨日ぶり、だね」
(こんにちは)
「こんにちは。もしかして、この近く住んでる?」
(え?)
「いや、私、昨日とは違ってこんな朝早くからここにいるからさ。もしかしたら、見つけて話し相手になりに来てくれたのかなって」
(近いけど……)
「へー、ここから近いんだ。でも大変でしょ? 台風とか来たら。最近物騒だもんねぇ」
(防風林があるから、家は大丈夫)
「防風林…………あ、あれか。もしかしてあそこが君の家?」
(ううん)
「そっか。まあいいや。ほら、こっちおいでよ。風気持ちいいよ」
(じゃ、じゃあ……)
「はい、いらっしゃーい。私ね、おばあちゃんの様子見に行くっていう体でここに来てるんだけど、実際向こうでの生活に嫌気がさしててさ。家出みたいな気分でここに来たんだ。だってさ、私が学校とかで嫌なことがあって話しても、お母さんは私の方がって言うし妹も私もしんどいって言って突っぱねるんだよ? しんどさなんて人に寄るんだからさ、比べられるもんじゃないよね。それで家でもストレスたまっててさー……」
(……)
「……あ、ごめん。こんなにべらべら喋ってたら、君の方がストレスたまるよね」
(そんなことないよ)
「そんなことない、って、君優しいね。彼女とかいるんじゃない?」
(ううん)
「へー、いないんだ。顔は……悪くないけどね。もうちょっと前髪切ってみたら? そしたらちょっとは垢抜けると思うけど」
(ど、どれくらい?)
「おっ、食いついた。うーん……大体これぐらいだから……」
グイっとこちらに距離を詰め、僕の前髪を人差し指と中指で挟む。
「一センチ、でいいと思う」
(あ、ありがとうございます……)
「ん? もしかして、照れてる?」
(そ、そんなことはっ)
「あはは! 反応面白っ! 本当に彼女いないんだねー……あっ、ごめん。流石に今のはデリカシーなかったです。はい」
反省した様子で僕から距離を取る。
(あの、あなたはどうなんですか?)
「えっ、私? 私は付き合ったことはあるけど、十日で別れちゃった。告られて、付き合って、でもやっぱないわーって振られて。その一回だけだよ? だから、さっきみたいに男子に近づいたのも、初めて」
(じゃあなんで……)
「なんでしたんだろうねー。でも、私はやっぱり変わろうって思ってるのかも。私、自分のこと結構嫌いだからさー。変身願望、みたいな?」
(変身願望……)
「だからさ、私、これから愚痴るの減らそうと思う。いちいち嫌なことがあっても、どうせ愚痴聞いてくれる人なんていないし。さっき君に愚痴った時、思ったんだ。聞いてる側も結構ストレスなんだなーって。これまで愚痴聞いてもらえないことだけがストレスだったんだって思ってたけど、人の愚痴聞く気にもなれなくてイライラしてたのに気づいたよ。ありがとう。君のおかげ」
(……)
「なーに黙りこくっちゃってんの? 感謝してるんだよ、私は。この島に来て二番目の収穫」
スタッ、と地面に降り、彼女は去っていく。
(いっ、一番目は?)
「え、一番目の良いこと? それはね……君っていう話し相手に出会えたこと! ばいばい! また明日!」
僕は振られた手に振り返し、暫く彼女が眺めていた景色を眺めていた。
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